2010年06月19日

高松砂漠排便権訴訟事件

 1980年代までの我が国の管理排便制度は、国家が積極的に管理を行う“保障型管理排便制度”として分類される。保障型の特徴は、排便が出来る箇所を厳重に管理する“登録制”が採用されている点にある。すなわち事前に常時使用する可能性のある便所を指定し、さらに紙や水(もしくは汲取契約)の確保を証明する書面を備えなければ、排便承認が降りない制度である。進駐軍の方針により衛生管理の強化に重点が置かれる中で、職場や自宅における便所の衛生状況の改善を強制的に推進する意図を以て始められた戦後型管理排便制度は、豊富な水資源と紙の確保が容易であるという我が国特有の条件とマッチし、社会衛生の改善に大いに役立ったと評価される。しかしその一方で、渇水時の排便用水不足などの問題も生じた。特に1958年の高松砂漠排便権訴訟は、管理排便制度の適正さを争った訴訟に発展したこともあり、大きな社会的関心を集めた。

高松砂漠排便権訴訟とは、高松市で起こった大規模渇水(1957年高松砂漠)時に、排便用水が確保できなったことを理由として排便申請が保留された為ことが原因で痔になったとして、高松市役所と香川県庁を相手に治療費の請求と自由排便の保障を求めた訴訟である。インフラ整備が進み、社会道徳が形成される中で、管理排便制度の是非を争われた社会的関心の高い事件となった。提訴以来3年の訴訟を経て1961年に高松地裁は「原告の痔の原因は行政当局の排便申請が保留されたことに由来する」として、高松市と香川県庁の責任を認める判決を下した。しかしこの判決は、社会からの強い批判に晒されることとなった。この事件を通じて公衆衛生と個人の排便権のどちらが優越されるべきかと言う論点が争われたにも関わらず、判決は原告に痔が発症しているという事実に対する救済の視点ありきで下されたからである。公共の福祉と私人の権利を論じるべき判決は、痔が生じた責任を追求するに留まり、管理排便制度の是非について正面から言及することを徹底的に避けるものであった。
高松市と香川県は、この判決を不服とし直ちに控訴した。1965年に高松高裁が下した判決は、第一審を破棄し、行政当局の判断は、管理排便制度に基づく適正なものであるとして認定した。その理由として高松高裁は「流すべき水がない状態で排便を行うことは、半永久的に排泄物がその場に放置されることにつながる。社会衛生を保つ為には、個人の排便権を規制することはやむを得ない。仮に個人の排便権を全くの自由とすることは、本質的な意味において公衆排便の容認以外の何物でも無く、近代市民社会に対する重大な脅威が背後に潜んでいる」と認定した。
この訴訟は、第二審にて従来の体制を肯定する結論が出たことに加え、活水の多い香川県固有の問題として捉えられたこともあり、管理排便制度のあり方を大きく左右するまでには至らなかった。また第一審の判決後に、排便処理に使う水がないにも関わらず、自分用のうどん茹で汁を確保していた原告の行動をスキャンダルとして取り上げたことに対する全国から批判が殺到し、管理排便制度の維持を望む世論が形成されたことも、影響しているだろう。原告は上告をしなかったため、この二審判決が確定したものとなった。

 高松排便権訴訟では、第2審の公判において排便権と管理排便制度の対立に対し、あくまでも管理排便制度を優先させるという原則が貫かれた。排便の自由を認めることは社会秩序を乱すものであり、いかなる状況であろうとも管理排便制度を堅持することが、最終的には「文明社会としての体裁を維持する為にも、行政は公共の福祉の確保を優先してあたらねばならない(第二審判決文)」のである。



注1 本文章は、コミックマーケット78にて頒布される文章の一部の抜粋である。

注2 コミックマーケットについては秋葉原大学を参照にされたく
http://upfg.lullsound.com/akiba-u.ac.jp/index.html
posted by 東村氏 at 20:37| Comment(1) | TrackBack(0) | 主張 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
毎日うどんを食べる
蛇口からうどんの汁
水がなければ、血でうどんを茹でる
香川に帰国したらまず、うどんを食べる

このへんのリサーチも追加よろ
Posted by katoso at 2010年06月20日 13:01
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