2006年03月30日

連続蜜柑小説ポンU 本編1

市街地と山の境界上を走る高速道路。
僕はバスの車窓から流れゆく街並みをぼんやりと見ていた。

遠く小高い丘の上に、近代的なビルの谷間に、昔ながらの堂々とした城が聳えているのが見えた。
やがてバスは幾分か長いトンネルをくぐると、大きな川を渡り、風景は一変した。
垣根を巡らせているかのような茶畑と、山の斜面に沿って段々に設けられた畑に無数の木がオレンジ色の果実をつけているのが見えている。

初めて訪れた、蜜柑の産地として有名なこの地で、僕は運命と出会った。



連続蜜柑小説
ポンU

Relay Orenge Novel "POM"



原作
東村 光 著 『蜜柑(2003年発表)』

出演
東村 光(UPFG)
Higashimura Hikari
鮒代 悟(UPFG東京)
Funadai Satoru
間崎 雪(UPFG神戸)
Mazaki Yuki
初井 潤(CSR米子)
Hatsui Jun




――――――遙か林檎の国へと旅だった友人Yに贈る。



1 島を結ぶ橋

 よく晴れた空から初夏らしい陽の光が注いでいる。
どこかのどかな農村の風景の中で、しかし、黒いスーツを身にまとった彼の姿はどこか浮いていた。
いくつかある農家とおぼしき住宅の呼び鈴を鳴らすと、農家の主婦らしい人なつっこさと、どことなく野暮ったさが残る初老の女性がのんびりと玄関を開けた。
「おんや、これはまぁ遠いとこからよう来はったなぁ……」
黒いスーツの男は軽い会釈で返すと、家の中へと上がり込んだ。

 通された奥の間に仏壇があった。
黒いスーツの男は仏壇に向き合うと、線香に火をつけ、丁寧にお参りをしている。
農家の主婦はじっと黙って後ろから彼の背中を見つめていた。
その表情はどこか複雑な感情が交じっているようにも見える。
 おもむろに男が振り返ると、主婦はこちらへと客間へと男を導いた。

 「しかしまぁ、東村さん。あんたがここに参るようになってからもう10年も立つじゃないか。ワシもすっかり老け込みましたわぁ……」
明け放れた縁側から、手入れをされた庭を眺めながら、東村とよばれた黒スーツの男は、出されたお茶を一口すすった。
「いえ、ご主人には生前、よくお世話になりましたから……いくら時間が流れても、もうあのときの恩は返せませんがね」
「いんやあんたぐらいのもんだぁ…毎年必ず命日に欠かさずに来てくれるのは……もうあンときの連中でうちの人のことを気にかけてくれるのなんざおらんわぁ……」
話の流れは自然と過去に向く。
10年と老婦人と言ったが、実際は12年前のことだった。
ここの仏壇に祀られている人物。
羽藤創(はとう そう)が死んだのは。

 東村は不意にここに来るまでの間に見た光景を想い出した。
海に向かって真っ直ぐに延びる橋は対岸の島まで続いていた。
羽藤が命を賭けて渡した橋。
そして彼は橋が完成すると、まるでそれを待ち受けていたかのように逝った。
まるで橋に遺志を託すかのように。

「ほれ、うちの畑でとれた蜜柑じゃ。一つ食べていきんしゃい」
東村は目の前に出された蜜柑をしげしげと見つめた。
幾分か小降りの温州蜜柑。羽藤が生前、よく好んで食べていたものだった。
川を向こうと手に取ると思ったよりも冷たい。
「本当は冷蔵庫で作るもんらしいがのぅ、最近は機械が便利になったけん冬のうちからずっと凍らせておいたんじゃ」
シャリシャリというアイスキャンディーとも違う食感の冷凍蜜柑を味わいながら、穏やかな午後が流れていった。

「時に……」
不意に老婦人が話題を変えた。
「最近ちぃと小耳に挟んだことがあってのぅ……」
「何か動きが……?」
東村の抽象的な問いかけ、老婦人がうなずく。
「詳しいことは判らんが、あンときの、ほれ……加川ンとこの倅がなにやら動いているようじゃけぇ、あんたも少し気ぃつけたほうがええかもしれんのぅ……」
加川ンとこの倅……加川正人のことだろう。
東村は加川に気をつけろと言う老婦人の忠告を受け止めると、羽藤邸を辞することにした。

「では、また。時間が出来たら立ち寄りますので……」
「ほんに、ほんに。まぁこんな田舎じゃけぇ、よっぽど余裕があるときにでも来て下されや」
「はい……。では失礼を……」
いつしか陽は傾き、遠く山のバックがオレンジ色に染まっていた。
東村はあぜ道を歩き、しばらくいくと誰もいない小さな駅まで行く。
予め帰りの時間を調べていたらしい。
彼が着いて程なく、水色のたった2台だけつながれた電車がガタゴトとホームに到着した。




posted by 東村氏 at 17:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 妄想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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