2006年03月30日

連続蜜柑小説ポンU 本編2

 蜜柑王国愛媛県下第2位の都市、今治。
何気なく入ったコンビニで、この間大学を卒業した先輩が何食わぬ顔でレジを打っていて意表をつかれた。
「ああ、誰かと思ったら福原さん……!」
数ヶ月ぶりに見た先輩は、学生時代とあまりかわらず飄々と片手をあげた。
冷蔵庫からペットボトルを一つ。
もちろんポンジュースだ。
 あんな小岩井農場なんて色付きからして薄いオレンジジュースなどとうてい飲む気にすらならない。
「先輩、ちょっとサービスして下さいよ」
冗談めかして値切り交渉をしたら、規則だからとあっさり断られてしまった。

 しばらく来ないうちにずいぶんと近代的な街になったもんだ。
数年前に瀬戸内海を挟んだ反対側の街、広島県の尾道と結ぶ大きな橋が山の向こうに微かに見えて、車窓から流れ去った。
トンネルと堤防を交互に眺めながら、電車に揺られているうちにうつらうつらと。
目が覚めると、既に松山に到着していた。

 ちらりと時計を見やると少し時間がある。
駅前の大規模古書店に入り、100円コーナーを見繕っていると不意に声をかけられた。
「……ご苦労」
こんな声のかけ方をするのは一人しかいない。
振り返ると、やはりそこにいたのは東村だった。
「なんかここに初井君がいるのに全く違和感がないな」といいながらお互いに笑い合った。

 すぐ近くの大型スーパー、通称グランに入ると、ひんやりとした冷気が体を包み込んだ。
「いやー初井さん…ありませんねぇ、この時間だと」
東村はずいぶんとケチな奴だ。
そして、無駄に豪勢な奴でもある。
また高級食材の半額品でも狙っているのだろう。
「神の足跡は、まだついていないようですな」
神の足跡、かつて彼のブログに書かれていた、スーパーの食品値引きシールのことだ。
よく黄色地に紅い文字で半額だの○円引きだの書いてあるアレのことだ。
さて、適当に東村を受け流しつつ、スーパーをうろうろと、そしてレジに通し、自転車にまたがった。

 いつも通り東村の家に上がり込み、買ってきた総菜を広げる。
東村はパソコンの電源をつけ、お湯を沸かしながら皿洗いなんかをやっている。
……また同人誌を増やしたな、コイツは。
東村の部屋に幾つもある本棚に収まっている薄い本がまた一段分増えていた。
先週、また神戸に行ってきたらしい。
ずいぶんと金と時間に余裕があるもんだ……
「さて、準備が出来ましたよっ、と」
いつの間にか、東村が皿と箸を整えていた。
「ひゃほーう」と、訳の分からない歓声を上げながら箸を伸ばした。

 夕食も程なく終わる頃、不意に東村が改まった表情になった。
「ところで……このあいだ神戸に行ったときのことなんだけどさ…」
奴にしてはずいぶんと歯切れの悪い。
「彼の墓前に行ってきたんだよ……」
彼―――ああ、彼のことか……
「……そういえば、命日だったんだ……」
羽藤と初めて向かい合った日と、彼と最後に会ったときのことが走馬燈のようにフラッシュバックした。
posted by 東村氏 at 18:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 妄想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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