2006年04月09日

さくらんぼの物話

 先月、祖父と従兄弟が旅行に行くというので同行し、和歌山・三重県を回ってきた。
メンバーは祖父、叔母、叔母の従兄弟(大学生)、叔父の従兄弟3人(中2男、小5男、小2女)、そして東村氏の7名であった。

 食事時の話である。
宿に入って間もなく夕食の時間となった。
指定された宴会場に入ると、南紀の海の幸が盛りだくさんの豪勢な料理が待ち受けていた。
 和やかな夕食が進むと共に、幾つかの皿が下げられ、そして幾つかの皿が追加された。

今日はそんな食事に纏わる心温まる兄妹の物語をお届けしよう。


 食事の最後に、デザートとして、小さな綺麗に盛りつけられたゼリーの小鉢が出てきた。
色とりどりのゼリーや果物の上に生クリームと、赤いおいしそうな缶詰のさくらんぼが鎮座している。
 一行の最年少、小2の従姉妹は喜んでデザートを食べた。
小さな小鉢の中は瞬く間に空になる。
すると隣に座っていた中2になる、その従姉妹の兄は「俺、こーゆーのあまり好きじゃないから」と言って、デザートを妹に与えたのだ。
当然妹は喜んで兄のデザートを口にした。
さらに、叔母とその息子の大学生のデザートも小2の従姉妹が食べていった。

 だが、従姉妹は5つもデザートを食べながら、まだ満足しなかったらしい。
小5の兄にデザートをねだったのだ。
その小5の従兄弟は、先ほど自分の兄が、妹にデザートを惜しげもなく与える様子を見ていた。
しかし、彼もまだ小学生。デザートを妹にあげるのを惜しんでいる様子だった。
叔母が従姉妹をたしなめる。
「コラ、もう5つも食べたじゃない。そんなに欲張ったらダメでしょ」と。
だが小2の従姉妹はなおもねだった。
すると、小5の従兄弟は、幼い表情の内に何かを決めたような目で、妹にデザートを譲ったのだ。

 私はこの、2年ぶりに再会した兄弟が、立派に成長している様子を見て、大変感動した。
 小2の従姉妹は流石に6個目のデザートを平らげると満足したようで、私の分まではねだってこなかった。
そこで私は、自分の分のデザートを小5の従兄弟にあげると、彼は大変喜びながらデザートを口にしたのだった。


(完)




さて、この話を別の視点から見てみよう。

 食事の最後に、デザートとして、小さな綺麗に盛りつけられたゼリーの小鉢が出てきた。
色とりどりのゼリーや果物の上に生クリームと、赤いおいしそうな缶詰のさくらんぼが鎮座している。
 一行の最年少、小2の従姉妹は喜んでデザートを食べた。
小さな小鉢の中は瞬く間に空になる。
すると隣に座っていた中2になる、その従姉妹の兄は「俺、こーゆーのあまり好きじゃないから」と言って、デザートを妹に与えたのだ。
当然妹は喜んで兄のデザートを口にした。
さらに、叔母とその息子の大学生のデザートも小2の従姉妹が食べていった。

 だが、従姉妹は5つもデザートを食べながら、まだ満足しなかったらしい。
小5の兄にデザートをねだったのだ。
その小5の従兄弟は、先ほど自分の兄が、妹にデザートを惜しげもなく与える様子を見ていた。
しかし、彼もまだ小学生。デザートを妹にあげるのを惜しんでいる様子だった。
叔母が従姉妹をたしなめる。
「コラ、もう5つも食べたじゃない。そんなに欲張ったらダメでしょ」と。
だが小2の従姉妹はなおもねだった。
すると、小5の従兄弟は、幼い表情の内に何かを決めたような目で、妹にデザートを譲ったのだ。

 私はハラハラしながら、先の展開を見守っていた。
ダメだ。ダメだ!絶対にダメなんだ!!!
あの小二の悪魔に俺のさくらんぼを奪われてたまるものか!
子供だからと言って甘やかされると思うな!
俺だってさくらんぼを食べたいんだ!!
そう、お前には絶対渡さない!!
このデザートは俺の分だ!

 叔母の分で満足しろ!
兄から奪った分で満足しろ!
頼む頼む頼む……こっちに来るな!!
さくらんぼを奪いに来るな!!


 小2の従姉妹は流石に6個目のデザートを平らげると満足したようで、私の分まではねだってこなかった。

よし、やった!やったぞ!
守りきった!!
俺のサクランボだ!!
この赤い果実を堪能するぞ!
果物に生クリームを添えて、シロップと絡めて、色とりどりのゼリーと一緒に!
メインディッシュのさくらんぼは最後のお楽しみに!!
ああ、至福の瞬間へいざ!!

ああ、叔母さん、その目は何だい?
大学生の従兄弟のは何が言いたい?
えっ、隣の小5の従兄弟かい?
彼は自分の意思でデザートを放棄したんだ。
もうお腹が一杯なんだよ!!
彼は何も我慢してない!
嗚呼、目で訴えるな!!
『デザートを譲って上げなさい、もう大学生でしょ?』という目は止めてくれ!!
従兄弟までそんな目で俺を見るな!!
『お兄ちゃんの分のデザート欲しいなぁ』という目で見つめるな!!
それは……それは……


俺 が 食 べ た か っ た さ く ら ん ぼ な ん だ


そこで私は、自分の分のデザートを小5の従兄弟にあげると、彼は大変喜びながらデザートを口にしたのだった。


ぁ…
ああ……

……俺の……俺のさくらんぼが……

ゆ っ く り と 飲 み 込 ま れ て い く … …



これが現実か……
さくらんぼ一つすら思い通りにならない。
こんな世の中はもうウンザリだ!!



 こうして私は自分の分のデザートを泣く泣く諦めるハメとなったのである。
私の青春を奪った小5の従兄弟は、食べ終えると元気よくホテルの地下にあるゲームセンターへとかけだしていった。
 私(22歳大学生)は、腹いせに祖父にデザートをねだると、さくらんぼもろとも一口で飲み込んだのだった。


(完)


posted by 東村氏 at 01:31| Comment(3) | TrackBack(0) | 総務 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
サイコー!!
Posted by ジョン at 2006年04月09日 02:12
意外にも優しい所あるんだね☆
Posted by のや at 2006年04月10日 08:16
>ジョン氏
大変美味しゅうございました

>のや氏(UPFG豪州)
老人に甘い物は良くないと思った結果です
Posted by 東村氏 at 2006年04月12日 00:25
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