これまでのあらすじ
東村氏は東京に到着したので、とりあえず初日のスケジュールをこなし、上野の宿へと向かったのである。
ホテルの部屋に戻ることには日付が変わっていた。
東京駅で別れた友人と、一足早い飛行機で東京入りしていた先輩が部屋にいた。
どうやら先輩は部屋を開けた間に、彼と同室の後輩が眠ってしまい、鍵を持たずに出てしまった先輩は、部屋に入れなくなってしまったのだという。
これは困ったことだ。
先輩の部屋に行き扉をノックしても応答がない。
もちろん呼び鈴も同様だ。
結局、フロントに行き鍵を借りて室内に入ると、後輩は机に足を乗せベッドに大の字になって豪快にいびきをかいていた。
部屋の問題も解決したところで夜の散歩へ。
といっても近くのコンビニへ行くだけだが。
コンビニ――松山には無いセブンイレブンだ――の向かいには、大きな鳥居と提灯が灯る神社があった。
戯れに詣でてみる。
下谷神社は都会らしいこじんまりとした境内には本殿と、小さな稲荷があった。
境内に踏み込むと、不意に灯籠から黒い固まりが飛び出してきた。
深夜の人気のない境内。
ここにいるのは私と、後に控える先輩だけ。
一体何があったのかと思うと何のことはなく、ただの猫だった。
夜の境内はどこか神秘的な空気に満ちていた。
寝静まった世界に、生活感がない路地……
だが夜の神社を味わう間もなく、携帯に着信が入る。
これから一ヶ月、休み無くスケジュールが詰まっている。
ゆっくりとする暇など無いのだ。
部屋に戻ったのが深夜1時。
ぼんやりとテレビを付けると、深夜アニメがやっていた。
萌えよ剣をを見て、床についたのが2時のこと。
現実はいつだって無情だ。
一番見たかったアニメ、ローゼンメイデントロイメントは深夜1時55分から放送されていたことなど露知らず、私は惰眠をむさぼったのであった。
ベッドから起きたのは朝7時前。
簡単に着替え、朝食を食べに。
朝食くらいはせめて優雅に食べたいものだ。
ゆっくりと食べている間に、先輩・後輩コンビが食事を済まし、自室へと戻っていった。
時計を見ると7時45分。
ふとフロントを見ると、一度戻った先輩・後輩コンビが荷造りを終え、チェックアウトしている様子が見えた。
引率の先生の姿もある。
先生と目があったので会釈をして、デザートを食べ終えた。
フロント前で先生と挨拶。
「おはようございます」
「東村君、出発の時間に間に合うのかい?」
ご安心を。私に抜かりはございません。
結局5分遅れでロビーに行くと、先生に引率された他のメンバーは丁度玄関を出るところだった。
「先に行ってるから、列車に間に合うように合流しなさい」
私はさらに遅れてきた同室の友人を連れて、上野駅への道を急ぐ。
上野駅前の交差点で無事に、先生達と合流を果たした。
8時34分発の八戸行はやて4号の指定席券を握りしめ、地下4階のホームへ。
ぱっと見は、普通の2面4線の地下鉄駅にも見えないことも無い上野駅にMAXとき12連が出入りする様は、違和感を禁じ得ない。
素晴らしい日本の技術新幹線。
こんな巨体に1200名以上の乗客を乗せて275km/hを無事故で走り抜ける新幹線に感動を禁じ得ない。
やがて東京方からE3系こまちを先頭にしたはやて4号が到着した。
3列シートの窓側に座ると程なく列車は発車した。
地下駅を抜け、地上への坂を登りそのまま高架へ。
遠く尾久の車庫を眺めながら左へ曲がる。
いつしか隣に埼京線が沿うように走り出すと列車は東京都を抜け、埼玉県へと入った。
大宮駅を出発すると、どんどんスピードが上がる。
途中宇都宮、福島を通過し、次の停車駅は仙台だ。
車内で仕事の資料に目を通しているうちにいつしか眠りに引き込まれていった。
仙台直前で目が覚めた。
今年8月に訪れて以来の仙台の光景はあまり変わっていないようにも見える。
2分ほど停車し、すぐに発車。
仙台を出ると幾つかトンネルを潜る。
幾分か長いトンネルをくぐり抜けると、車窓が雪景色に変わった。
遠く広がる北上平野の田畑は白い雪に覆われ、さらにぐずついた天気はちらちらと雪を降らしていた。
そんな中をE2系は275km/hで走り去って行く。
東海道区間と全く異なる車窓の中、はじめて乗った東北新幹線は大きく揺れずに快適に走り、やがて盛岡駅に到着した。
ここで下車となる。
プラグ式の扉から一歩ホームへ踏み出すと、冬の東北らしい寒さに包まれた。