夢うつつの中、ぼんやりとしながら枕元の時計をたぐり寄せると、丁度5時になろうとかという頃合いだった。
―――随分と早いな……
そのまま枕に顔を埋め、うとうとと、二度寝へと意識が薄れかけたとき、身体が揺すられるのを感じた。
―――まだ早いじゃないか、起こさないでくれよ……
いや、待て。
誰が起こしてくれるのだ?
不意に頭に疑問が浮かび、気がつけば部屋全体が大きく揺れていた。
地震かっ!!
思わず飛び起きる。
揺れは収まる様子が無く、さらに激しさを増していく。
一体いつまで揺れ続けるんだ!
咄嗟に本棚が倒れない様に支えながら毒づいた。
窓からは、爽やかな朝の日差しが差し込んでいた。
いつまでも続くかに思われた揺れは、いつのまにか収まっていた。
時計を見ると5時2分。
揺れそのものは1分もなかったに違いないが、体感時間は随分と長く感じた。
窓の外に目をやると、相変わらず爽やかな青空と、砂埃が吹き上がり、道路がひび割れた松山の市街地が広がっていた。
愕然としながらもテレビの電源を入れる。
………ダメだ。停電している。
しんと静まりかえったように音がない。
やがて遠くから幾重にも重なったサイレンの音が聞こえてきた。
とりあえず、一端外に出て、様子を確かめなければ。
部屋の鍵をかけ、マンションの外へ。
もちろんエレベーターは使えない。
壁に幾つか亀裂が走っているが、見たところすぐに崩れそうな感じでもないので安心した。
昨日の夜まで平だったはずの路面は所々亀裂が走り、盛り上がっている。
とりあえず大学へ向かって歩いてみることにした。
伊予鉄の踏切を越えると工学部が見えてくる。
工学部棟は煙を噴いている。
6〜7階辺りの窓から黒煙がもうもうと拭きだし、時折赤い炎が見える。
玄関には徹夜で残っていたとおぼしき学生が呆然とした表情で、建物を見上げていた。
日頃から世話になっている法文講義棟は、無惨にも崩れ落ちていた。
講義棟と2号館を結ぶ屋外の階段が、残骸の中、途中まで原形を留めていた。
向かいの図書館も、幾枚かのガラスが割れ、まるで廃墟にしか見えない。
法文学部本館前の時計は根本から折れ、道をふさいでいた。
そのまま共通教育講義棟や、教育学部のあるエリアへ。
グリーンホールとの愛称のついた大講義室も」、大きなガラスが全て割れ、天井にぶら下がっていたであろうプロジェクターが落下している。
もし、これが昼間だったら、幾人かの学生が犠牲になっていたかもしれない。
「短い人生だった...な」