2007年05月15日

ナカムラと猫

或るところに一匹の猫がいた。
その猫には飼い主がいない。
さりとて野生でもない。

都会の雑踏の中で、幾人かの決まった人間と大多数の気まぐれを起こした人間から餌を恵んで貰い、足りなければ路地のゴミをあされば腹は満たされる。
猫は、そんな日々を送り今日まで生き延びてきた。

猫を餌付けする幾人かの一人。
それがナカムラである。


極めて性的な意味で猫が好きなナカムラではあるが、自身は猫を飼っていない。
その理由を彼をよく知る者に言わせればこういうことだ。
「彼はいつの日からか、猫に対して性的な感情抱くようになってしまったのさ。だけど2次元と3次元ほどではないにしろ、彼と猫の間には種族という大きな壁がある。だが案外ナカムラにしてみれば、その方が幸せなのかもしれないと、私は最近強く思うのさ。だって猫と人間の間には2次元と3次元にも等しい大きな壁があるのだから」



休日の夕方。
駅前の雑踏の中に一匹の猫がいる。
行き交う人々は猫のことを気にかけるのでもなく、ゆったりと時にはせわしなく通り過ぎるばかりである。
その中で足を止めた男が一人。ナカムラである。
ナカムラは、猫の前にしゃがみ込む。
猫はナカムラをしばし見つめ、一声ニャアと鳴くとノソノソと、そして急に走り出すと、都会にありがちなビルとビルとの僅かな隙間の中へと融け込んでいった。
ナカムラは一人残された。
ゆっくりとその場に立ち上がり、その場を取り繕うかのように携帯電話をポケットから取り出した。


この世界を支配する東村は、ナカムラの到着を待っていた。
駅前の複合ビルに入る大型書店の小説コーナーでゼロの使い魔を立ち読みしながら、である。
左手にいつも身につけている腕時計をみやると、すでに待ち合わせの時間から3分以上が過ぎ去っている。
この東村、人を待たせることは日常茶飯事だが自分が待たされると立腹するやっかいな人物である。

さらに5分ほどして、東村の目の前にナカムラが現れた。
開口一番に東村は言い放つ。
「君ィ、一体何分待たせるつもりだい?」
ナカムラは忌々しげに東村を見やった。
2ヶ月ぶりの再会だが、さほど変わったところがあるようにも見えない。
その間も東村はネチネチと苦情のような小言のようなことをしきりに話していたが、右の耳から左の耳にスルーする。
「さて、行こうか」
そう、告げながら後ろのエレベーターホールへと足を向ける。
一歩遅れて東村も付いてきた。



posted by 東村氏 at 12:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 妄想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。