2007年06月05日

ナカムラとネコ 第2話

ナカムラは黙々と先を行く。
東村は一歩歩くたびに「疲れた」「腹が減った」「萎えた」など、ブツブツ文句を言っている。
いささか不愉快だ。

赤信号に足を止めると、東村が1歩遅れて横に並んだ。
目の前では車が行き交い、雑踏に紛れて信号のスピーカーが鳥の声を奏でていた。
東村は一言も話さない。
この日頃から五月蠅い男にしては珍しいと彼の横顔を見やると、横断歩道の反対側を凝視している。
車の波が一瞬とぎれたその先には、幼女がいた。
ナカムラはあからさまに嘆息したが、東村は気にする様子でもない。
そしてやおらに低い口調で呟いた。
「幼女だ」と。

信号が青に変わる。
一世に人が動き出す。
この流れに飲み込まれるように一員となり、ナカムラは歩みを進める。
東村は器用にも幼女を凝視しながら、人波をかき分けるように歩いていた。

これがいけなかったのだろうか?
その5分後のことである。
一台の車がゆっくりと走り、ナカムラの少し先で停まった。
かと思うと、機敏な動作で車の中から数名の男が飛び出し、行く手を遮った。
何事かと思い、男達に相対する形でナカムラと東村が立ち止まると、男達の責任者とおぼしき男が一歩前に出た。
その目線は明確に自分達に向けられている。
何か用事がある様子だが、心当たりはない。
東村の表情にも何も浮かんではいない。

「東村氏……ですね?」
東村は黙ってうなずいた。
「……こちらの方は?」
「ツレだ」
男はナカムラを一瞥すると、さほど興味がないと言いたげに目線を外した。
「東村氏、私たちと共にご足労願えませんかね?」
慇懃無礼な態度だ、とナカムラは思った。
「一体どのようなご用件で?」
質問に対し質問で切り返す。
東村は能面のような表情から、彼が何を考えているのかは分からない。
いつの間にか車の台数が増え、後ろにも数名の男が囲んでいた。
「それは来ていただければ、分かることです」
男の一人が一歩踏み出す。
「随分と手荒な出迎えだな。ナカムラ君、私は彼らと行くから」
東村はそう言い残すと、後部座席へと姿を消した。
男達も一斉に車に乗り込み、ナカムラだけが路上に立ちつくしている。

ほんの一瞬の出来事だった。
幹線道路をUターンして去りゆく車を呆然と見送るナカムラの足下に、どこからか現れた猫がまとわりついていた。


posted by 東村氏 at 23:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 妄想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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