2008年01月26日

背景無き初音ミク

論文名:背景無き初音ミク
概 要:萌文化の成熟とキャラクター形成
筆 者:東村光 秋葉原大学萌学部准教授
Title:Process of Moe Charactor establishment from "HATUNE MIKU"
Auther:Hikari Higashimura Associate Professor. The University of Akihabara
初 出:萌例タイムズC73号9-21項 2007年12月31日 コミックマーケット73新刊
Source:Journal of MOE archtechture No.C73pp.9-21. DEC 31/ 2007 ComicMarkets 73

目 次
T.素材としての初音ミク

T-1.緒言
T-2.パッケージされたキャラクター
T-3.初音ミクのキャラクター領域
T-4.主人公なき初音ミク
T-5.初音ミク同人誌は二次創作か?

U.エココの記憶
U-1.エココブーム
U-2.でじことエココの類似性
U-3.任意論(伺か論)
U-4.アスキーアートの確立
U-5.形成プロセスの確立

V.初音ミクのキャラクター形成
V-1.キャラクター形成の違い
V-2.葱と初音ミ
V-3.初音ミクの多面性
V-4.初音ミクの消失(オリジナル曲)
V-5.初音ミクの確立

W.背景無きキャラクターへの萌え
W-1.キャラクターと背景
W-2.サブキャラクターへの人気
W-3.背景なきキャラクターの成熟



T 素材としての初音ミク

1 緒言

 2007 年8月末にリリースされたクリプトン・フューチャー・メディア社(以下クリプトン社)の音声シンセサイザー「初音ミク」は、ニコニコ動画を中心とするネットコミュニティで一大ムーブメントを引き起こした。初音ミクというソフトウェアが基礎とする VOCALOIDの技術そのものは、2004年にリリースされた MEIKOに始まる5種類の製品にて、ある程度の実用化が為されており、初音ミクでは技術的な進歩を認めることが出来るが、機能上のコンセプトに特筆すべき点は見られない。しかしながら現実には MEIKOと初音ミクの間には商業的な大きな間隙が存在し、VOCALID自体もまた初音ミクの着目が集まることにより、その存在が広く知られることになったのである。

 初音ミクの商業的成功の理由として、既にweb上に氾濫している様々な言論が指摘するところではあるが、確立したキャラクター性とニコニコ動画という作品発表に適したインフラの確立というタイミングの2つの要因が挙げられるだろう。より端的に言えば、ニコニコ動画が盛り上がっていたところに、萌えの様式を踏まえたキャラクターという適当な素材である初音ミクが投入され、成功を収めたのである。

そして TBSによる偏向報道と、Google、YAHOOなどの画像検索における“初音ミクの消失事件”が、初音ミクの存在をさらにネットユーザーに対し宣伝することとなったのである。一般社会における扱いはともかく、ネットコミュニティにおいては、これらの一連の騒動は初音ミクへのさらなる興味関心の集積に結果として大きく貢献したことが指摘できるだろう。

 本稿では初音ミクに対する萌えがどのように形成され、一大ムーブメントに至るかについての議論を行う。筆者は初音ミクに対する萌えの構造は、曖昧な主観である萌えの特性が最大限に廃された結果として成立したものであると捉えている。初音ミクへの萌えの構造を理解することは、萌えの動向および形成プロセスについて、従来のストーリーに依存する萌えの形態からの転換について明らかにすることである。萌え社会の成熟に伴い、クリエイターとユーザー(ヲタク)の間に存在した関係が徐々に対等に近づきつつある中で、ユーザーによる萌えの形成への参画は増加しつつある。本稿はこのような現状を踏まえた上で、初音ミクに見られる従来の萌えとは異なる構造を明らかにし、その意義について検討を行うものである。



2 パッケージされたキャラクター
 初音ミクの成功の一因として、確立したキャラクター性が指摘出来る。ここで私が用いるキャラクター性とは、キャラクターとしての性格設定が確立しているという意味ではなく、ソフトウェアのセールスポイントとして人格(=キャラクター性)が効果的に用いられているという意味においてである。初音ミクの最大の特徴は VOCALOID2という新しいエンジンに基づき、従来のコンピューター合成では難しかった自然な歌声を実現した点であるが、実際のパッケージにおいては、自然な歌声を実現する VOCALOID2という DTM技術以上に、初音ミクというキャラクターそのものが前面に押し出されている。

 初音ミクがDTMソフトとしては異例の売れ行きを記録したことは既に報じられたことであるが、この事象は DTMソフトとして見込める一定の需要を超える需要が発生したと読み解くことが出来るだろう。つまり初音ミクへの需要の中に、音声シンセサイザーとしての機能以外のものを求める需要が存在したのである。では機能を超える需要とは何かということを考えた場合、それは初音ミクというキャラクターそのものに対する需要であると捉えることが妥当であろう。つまり歌手としての初音ミクへの人気が集中したことで、グッズを購入するのと類似した需要が発生したと考えられるのであり、より端的に述べると初音ミクという2次元キャラクターへ萌えが高まることで、“原作”であるソフトに対する需要が高まったのである。

 つまり音声シンセサイザーという決して需要が大きくないソフトウェアに、付加価値として萌えの要素を取り込んだことで、本来の購買層 [12]とは異なる需要が掘り起こされたのである。初音ミクが“萌えのアーキテクチャ”に則り設計されていることは明白である。それはキャラクターデザインや起用された声優の傾向が如実に示している。この付加価値として取り込まれた萌えの要素は、初音ミクという人格に集約された。クリプトン社の公式サイトに掲載された情報の中には、本来の用途には全く寄与しないキャラクターとしての初音ミクのスペックが示されている。これはこのソフトウェアに含まれているものは、単なる音声シンセサイザーとしての機能のみではなく初音ミクという萌えキャラクター全体であることを示唆している。

 近年、二次元キャラクターに対し“俺の嫁”という表現で萌えを表す言説が目立ち始めている。初音ミクの確立したキャラクター性は、“俺の嫁”の対象として相応しいものであろう。初音ミクを購入することは初音ミクが嫁いでくるということであり、“歌手”初音ミクを独占することであるのだ。

※ この論文の内容について、2月12日の最終萌学講義(愛媛大学)にて「萌えキャラクター形成理論」として東村准教授による講演が行われます。




※WEBサイトなどでの引用時は、目次ページの掲載をお願いします。
http://upfg.lullsound.com/akiba-u.ac.jp/reports.html


posted by 東村氏 at 17:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 主張 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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