2011年04月17日

悲惨倶楽部

【プロローグ】


それが、明らかになったのは、全てが終わる頃だった。
悔やんでも悔やみきれない。
もっと私がしっかりと彼女の心をつなぎ止めていれば、もしかすると防げてたのかもしれない。


………まだ諦めきれない。

時計を見ると、まだ長針が真下を、短針は水平から少しだけ下を向いていた。
日が落ちるまではまだ時間がある。
こういう時、蓮子がいれば時計をみるなんて―――――

……行こう。


どこに行けばいいかなんてわからない。でも私は動かないといけない。
とりあえず格好だけ整えて、私は外へ飛び出した。




悲惨倶楽部 ~Double plus ungood Solutions~


【1】

数日前のことだった。
私は秘封倶楽部の活動をすすめるべく、宇佐見蓮子の元を訪れていた。
トレードマークの帽子に、いつも身につけているバッグ。
そして見慣れない名刺入れ。

無意識のうちに蓮子の持ち物をチェックしていた私は、新しいアイテムに興味を示した。
「ねぇ蓮子、名刺入れなんて新調したの? 中に入れる名刺もないのに」
「ああ、これね。これは必要が生じたから手に入れたのよ。メリーにもそろそろ話してもいい頃合ね」

なぜだろう、私は蓮子がとても良くないことを口走る気がしてならなかった。
蓮子は名刺入れの中から1枚の名刺を抜き出した。
シンプルなデザインの名刺はどこにでもあるようなものだった。
強いて違和感があるとすると、真ん中ある宇佐見蓮子の名前と、左上にある私が見たことのないロゴが1枚の紙に収まっていることだろうか?

「メリー、あなたはこのロゴに見覚えはあるかしら?」
蓮子が指差す先にはUPFGという見たことのないアルファベットが並んでいる。
「ゆー、ぴー、えふ、じー?」
「そう、UPFG。私はね、この組織の一員となったのよ。もうただの学生じゃない。私はUPFGの京都支店長に任じられたの!」

ああ。蓮子は頭をお病みなってしまったのだろうか?
私が助けないと。
うん、これは秘封倶楽部にとっての異変だ。

前のめりになって名刺に書かれた謎の組織についての話を始めかけた蓮子の目の前に指を突きつけ、話を制した。




この後いろんな展開がある。




中略
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2007年12月14日

新怪奇柑橘伝説 −P・O・M−

『あのポンが1年間の沈黙を破り帰ってきた。』


1999,6 ノストラダムスの大予言が静岡県に襲いかかる。
風光明媚な浜名湖畔に大量のウナギの遺体が打ち上げられた。
浜名湖の悲劇と呼ばれるこの大量虐殺は、コイヘルペスより、子供を失った霞ヶ浦の鯉の呪いであったのかもしれない。


2002,2 京都タワーが宇宙へ向かって飛び立つ前日のこと。
「もし僕が帰って来れないとき、この八つ橋の皮を剥くんだ」
「そんなこと……出来るわけないじゃない……」
京都1300年の歴史は今、未来へ向かい新しい姿を模索している。


2004,6
第3次東村内閣が発足した。
2年ぶりに官邸の主となった東村氏は、スポンジ王国に宣戦を布告。
神戸大橋は爆破され、軍に乗っ取られたフェリーダイヤモンドから特殊工作部隊が次々と下船し、先端医療センターは戦場と化した。



新怪奇蜜柑伝説 −P・O・M−
このあと公開







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2007年06月05日

ナカムラとネコ 第2話

ナカムラは黙々と先を行く。
東村は一歩歩くたびに「疲れた」「腹が減った」「萎えた」など、ブツブツ文句を言っている。
いささか不愉快だ。

赤信号に足を止めると、東村が1歩遅れて横に並んだ。
目の前では車が行き交い、雑踏に紛れて信号のスピーカーが鳥の声を奏でていた。
東村は一言も話さない。
この日頃から五月蠅い男にしては珍しいと彼の横顔を見やると、横断歩道の反対側を凝視している。
車の波が一瞬とぎれたその先には、幼女がいた。
ナカムラはあからさまに嘆息したが、東村は気にする様子でもない。
そしてやおらに低い口調で呟いた。
「幼女だ」と。

信号が青に変わる。
一世に人が動き出す。
この流れに飲み込まれるように一員となり、ナカムラは歩みを進める。
東村は器用にも幼女を凝視しながら、人波をかき分けるように歩いていた。

これがいけなかったのだろうか?
その5分後のことである。
一台の車がゆっくりと走り、ナカムラの少し先で停まった。
かと思うと、機敏な動作で車の中から数名の男が飛び出し、行く手を遮った。
何事かと思い、男達に相対する形でナカムラと東村が立ち止まると、男達の責任者とおぼしき男が一歩前に出た。
その目線は明確に自分達に向けられている。
何か用事がある様子だが、心当たりはない。
東村の表情にも何も浮かんではいない。

「東村氏……ですね?」
東村は黙ってうなずいた。
「……こちらの方は?」
「ツレだ」
男はナカムラを一瞥すると、さほど興味がないと言いたげに目線を外した。
「東村氏、私たちと共にご足労願えませんかね?」
慇懃無礼な態度だ、とナカムラは思った。
「一体どのようなご用件で?」
質問に対し質問で切り返す。
東村は能面のような表情から、彼が何を考えているのかは分からない。
いつの間にか車の台数が増え、後ろにも数名の男が囲んでいた。
「それは来ていただければ、分かることです」
男の一人が一歩踏み出す。
「随分と手荒な出迎えだな。ナカムラ君、私は彼らと行くから」
東村はそう言い残すと、後部座席へと姿を消した。
男達も一斉に車に乗り込み、ナカムラだけが路上に立ちつくしている。

ほんの一瞬の出来事だった。
幹線道路をUターンして去りゆく車を呆然と見送るナカムラの足下に、どこからか現れた猫がまとわりついていた。
posted by 東村氏 at 23:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 妄想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年05月15日

ナカムラと猫

或るところに一匹の猫がいた。
その猫には飼い主がいない。
さりとて野生でもない。

都会の雑踏の中で、幾人かの決まった人間と大多数の気まぐれを起こした人間から餌を恵んで貰い、足りなければ路地のゴミをあされば腹は満たされる。
猫は、そんな日々を送り今日まで生き延びてきた。

猫を餌付けする幾人かの一人。
それがナカムラである。


極めて性的な意味で猫が好きなナカムラではあるが、自身は猫を飼っていない。
その理由を彼をよく知る者に言わせればこういうことだ。
「彼はいつの日からか、猫に対して性的な感情抱くようになってしまったのさ。だけど2次元と3次元ほどではないにしろ、彼と猫の間には種族という大きな壁がある。だが案外ナカムラにしてみれば、その方が幸せなのかもしれないと、私は最近強く思うのさ。だって猫と人間の間には2次元と3次元にも等しい大きな壁があるのだから」



休日の夕方。
駅前の雑踏の中に一匹の猫がいる。
行き交う人々は猫のことを気にかけるのでもなく、ゆったりと時にはせわしなく通り過ぎるばかりである。
その中で足を止めた男が一人。ナカムラである。
ナカムラは、猫の前にしゃがみ込む。
猫はナカムラをしばし見つめ、一声ニャアと鳴くとノソノソと、そして急に走り出すと、都会にありがちなビルとビルとの僅かな隙間の中へと融け込んでいった。
ナカムラは一人残された。
ゆっくりとその場に立ち上がり、その場を取り繕うかのように携帯電話をポケットから取り出した。


この世界を支配する東村は、ナカムラの到着を待っていた。
駅前の複合ビルに入る大型書店の小説コーナーでゼロの使い魔を立ち読みしながら、である。
左手にいつも身につけている腕時計をみやると、すでに待ち合わせの時間から3分以上が過ぎ去っている。
この東村、人を待たせることは日常茶飯事だが自分が待たされると立腹するやっかいな人物である。

さらに5分ほどして、東村の目の前にナカムラが現れた。
開口一番に東村は言い放つ。
「君ィ、一体何分待たせるつもりだい?」
ナカムラは忌々しげに東村を見やった。
2ヶ月ぶりの再会だが、さほど変わったところがあるようにも見えない。
その間も東村はネチネチと苦情のような小言のようなことをしきりに話していたが、右の耳から左の耳にスルーする。
「さて、行こうか」
そう、告げながら後ろのエレベーターホールへと足を向ける。
一歩遅れて東村も付いてきた。

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2007年04月02日

萎えた

【2日東村】東村首相は、先月22日に申し込まれた小学校の元同級生の女性(23)から、性癖の不一致を理由に、関係を解消されたと発表した。
東村氏談話「翠星石を捨てようとした私が愚かだった」


【2日東村】東村首相が先月31日に受けた内定を取り消されていたことが分かった。性癖が社会通念上許容される幅から逸脱していることが理由とされている。
東村氏談話「俺は Pokemon M@ster になる」



萎えた
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2007年02月20日

猫とナカムラ

問 この文章を読んで、著者が言いたいことを説明せよ



或るところに一匹の猫がいた。
その猫には飼い主がいない。
さりとて野生でもない。

都会の雑踏の中で、幾人かの決まった人間と大多数の気まぐれを起こした人間から餌を恵んで貰い、足りなければ路地のゴミをあされば腹は満たされる。
猫は、そんな日々を送り今日まで生き延びてきた。

猫を餌付けする幾人かの一人。
それがナカムラである。

ナカムラは猫が好きだ。
猫を愛している。
それは勿論性的な意味を多分に含む猫好きということだ。
なぜ彼が猫を好きになったのかというと、彼をよく知る者に言わせればこういうことだ。
「彼はいつの日からか、2次元と3次元の区別がとんとつかなくなってしまった。だがある日、秋葉原の歩行者天国の真ん中で、器用なことに車線を引く白線とアスファルトの段差に躓いて、転び頭を強く打って以来、2次元と3次元の猫にしか強く関心を示さなくなってしまったのだよ。だが案外ナカムラにしてみれば、その方が幸せなのかもしれないと、私は最近強く思うのさ」

なるほど、しかし彼は猫が好きだからと言って、餌付け以外には何もしない。
たまに世間を賑わすような虐待をする訳でもなく、それどころか彼は猫を自宅で飼うことすらしていない。
では一体、猫とナカムラの間には何があるというのだろう。

話は2年ほど昔にさかのぼる。

人気のない都心の再開発地域。
道の両側には高層ビルがそびえ立ち、まるであたりを見下すように威圧する。
ナカムラは、等間隔に並べられた街灯が照らす広い誰もいない道を歩いていた。
その足取りは重いとも軽いとも言えない。
まるで生気を感じない、どこか不安定な歩き方は都会に長く住みすぎた疲れによるものか。
やげてナカムラの前に交差点が現れた。
信号が赤く点っている。
ナカムラは辺りを見回すと、横断歩道を渡り始めた。
頭上の信号は青。目の前の信号は赤。
道行く車もなければ見てる人もまたいない。
その時、足下に違和感を感じた。

よく見ると、1匹の黒い猫を踏んでいた。
ナカムラが足をどけると、猫は一声「ニャア」と鳴いてどこかへと走り去る。
「待て。待つんだ。父さんだろ」
ナカムラは猫を追いかけ始めた。

猫は塀の隙間へと逃げ込んだ。
ナカムラは中へ入れない。
猫はやがて見えなくなった。
ハァハァと、息を切らせたナカムラは今自分がどこにいるのか判らない。
見覚えのない街並みが広がっている。
ナカムラは思った。
「ここは異世界に違いない。あの猫は使い魔で、僕をこの世界へと呼び寄せたのだ」
ナカムラはこの世界について何か手掛かりが欲しかった。

暗い街の中に、明るい光を放つ場所がある。
コンビニだ。
開店当時の営業時間を名に掲げたコンビニに入り、街の情報をあさった。
ない…ない…ない…あった。
赤い表紙のフリーペーパー。
ホットペッパーと巷では呼ばれるその一冊の本を握りしめ、ナカムラはコンビニを後にした。

同じような形の集合住宅に挟まれた小さな公園で、月明かりだけを頼りにナカムラは必死に探した。
この本の中に、何か大切なことが書いてあるはずなのだ。
だがいくら探しても見つからない。
そのうちどんどんと東の空が白み始めてきた。

黒い闇に覆われていた空は、次第に群青から鮮やかなオレンジへと色を変えつつあった。
朝陽が昇る頃、鳥がさえずり、街が目覚め始める。

ガタンゴトンと遠くで電車が走る音がする。
ナカムラは気がついた。
「あの走行音は……京急だ」

ナカムラはいつの間にか自分がいるべき世界に帰っていたのだ。
その証拠にほら、見慣れた赤い電車が走っている。
ホットペッパーを無造作に公園のゴミ箱に突っ込み、公園を後にしようとすると、ベンチの下から一匹の猫がはい出てきた。
その猫が昨夜見た猫と同じ猫かどうかは知らない。

もう猫など、ナカムラからしてみればどうでもいいのだ。
ただ何の気の迷いか、ポケットに入っていた魚肉ソーセージを契り、猫に投げつけてやると、猫は「ニャア」と鳴いて一心不乱にむさぼり始めた。
その様子がなにやら滑稽で、ナカムラは猫に餌付けを始め、そして猫に目覚めたのである。

今日もナカムラは猫に餌を与える。
今日も猫はナカムラを待っている。

それは、とてもありふれた都会の1風景にとけ込んでいた。




エピローグ後
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2007年02月18日

低頻度更新再開のお知らせ

表題の通り>挨拶



読むほどのものではない
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2007年01月18日

スタバとセイコーマート

「ねぇ、なんか最近私のこと、避けてるでしょ?」

 ちょっとした時間潰しに立ち寄ったスターバックスで、偶然見付けた顔。
少し前までは、ちょっとした立ち話をするくらいの仲だった友人が、冬休みを挟んで、しばらく顔を合わせないうちにすっかり疎遠になってしまった。

 どこかソワソワと落ち着かない雰囲気で、その友人は
「そんなことなんてないさ」と否定するが、口先だけなら何だって言えるだろう。
 事実、そんな風に釈明しながらも、視線が泳ぎ、チラチラとあたりの様子を気にするような仕草を続いている。
嘘ばっかりだ。
 それはまるで……私から早く逃げたがっているかのようにすら見える。

 何か気に触ることでもしただろうか? だけど心当たりになりそうなこともない。
強いて言えば、この間、金が無くて食べるものにすら困るとという話を聞いて、銀座・資生堂パーラーでコース料理を食べた経験談を高圧的な口調で語ると同時に、君は無教養だと罵倒したことがあったが、それくらいたいしたことではないだろう。
 ロスでは日常茶飯事(にちじょうちゃはんじ)の出来事だ。

「……でも、」
「ところで…」
同じタイミングで話を振りかけ、つい止めてしまう。
なんというベタな展開。イマドキのギャルゲーですらこんな描写はない。
……いや、私は一体何をたずねようとしたのだろう?
なんとなく、間を埋めようと口を開いたが、私と友人の間に共通の話題なんてそもそも無い。
 そう、初めからさほど親しい仲というわけでもないのだ。
それを無理に「避けていない?」なんて問いつめてみたところで、今までの人間関係から考えれば、そんなにおかしくだってないはずだった。
どうして……

 友人はまるで何か焦るかのようなそぶりを見せだした。
腕時計に目をやり、一刻も早く私の前から立ち去りたい、そんな雰囲気を隠すことなく、落ち着きがない。
そんなに私と会話を交わすのがイヤなのか?

 どうしてか、友人のそんな態度が癪に障った。

「どうしてそんなに……私のことを避けるの!?」
少し強めの口調で問いつめるが、友人はバツが悪そうに、
「ちょっと今は……」とだけ言い残し、身を翻す。
このまま行かせてしまってはダメだ。
反射的にそう思い、友人の袖口をつかもうとする。
だが友人はまるでその動きを予測していたかのように、体を落とす。
あの動きは振り返ると見せかけたフェイントか!?
友人はそのまま体を起こし私の背後をとった。
延ばしかけた手をそのままスイングするように、背後に回り込んだ友人を捕まえようとするが、動きが1テンポ遅かった。
友人は狭い店内とは思えないほど俊敏な動作で、椅子とテーブルの間を走り抜け、行き止まりの扉へと駆け込む。

 扉が締められ、同時に鍵の落ちる音。
私と友人を隔てるたった1枚の薄い扉。
ダウンライトに照らされた木目の扉の目線の高さに、真鍮のプレートがかかっていた。

 やがて、扉の奥から篭もった水の流れる音が聞こえるころ、私は既にスターバックス自体を後にしていた。
店を出て、タクシーを拾う。もう一刻も早くこの場から立ち去りたかった。
自宅の住所を告げ、流れゆく車窓に目をやりながら、先ほどの出来事を思い返す。
 あの友人は限界だったのだろう。
今ならわかる。
どうして友人があんな態度をとっていたのか。

「あ、スイマセン。ちょっとそこのコンビニによってもらえませんか?お手洗いを借りたいので…」
私を乗せたタクシーは、道を外れるとオレンジ色の看板と、コーナーに設置されたレジが特徴的なコンビニエンスストアの駐車場に静かに停まった。


posted by 東村氏 at 14:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 妄想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月16日

亡き友の遺書

 銀杏の葉が鮮やかに色付く頃。
友人の1人が逝った。
どうして死んだのか、その理由はよく分からない。
ただ随分と突然なものだった。
事故とも自殺とも噂だけは流れたが、結局確認は出来ずじまいにいるうちに1年が過ぎ去った。

 その友人と会ったのは、高校入試の時だった。
ピリピリと張りつめた受験特有の雰囲気の中で、初めて受ける試験に緊張しながらも午前に3科目、午後に2科目の問題を次々と解いていく。
ちょうど昼休みの時だった。
出かけにコンビニで買った栄養ドリンクとサンドイッチを頬張り、片手間に英語の単語帳を開いているとき、不意に前に座っていた彼が私に声を掛けてきた。
「君さ、1人で受けに来たの?」
私は戸惑いながら無言で頷いた。
「そうか。僕もそうなんだ」
その時になって初めて気がついた。
同じ中学から一緒に受けに来ている他の受験生は、固まって食事を取っていることに。
1人で食事をしている受験生は私と彼の2人だけのようだった。
「まぁ試験頑張って。邪魔したね」
彼は私が開いたままの単語帳に目をやると、そう言い残して席に戻った。
私があっけにとられていると鐘が鳴り響き、昼休みは終了した。


 試験から2週間が過ぎ、私は合格通知を手にしていた。
 入学式前のガイダンスの為に、受験番号順に教室に押し込まれた初の登校日。
私の前に机には、あの日と同じように彼の後ろ姿があった。
「やぁ」
そう、彼は私を見るといつも「やぁ」と挨拶し、別れるときには「じゃあまた」と言って右手を挙げる習慣があった。朝でも、昼でも、夜でも彼の挨拶は「やぁ」だった。
そして彼はいつもと同じように、初めての挨拶をした。

 同じ中学から来た友達も居なかったので、私と彼はすぐに仲良くなった。
共にどちらかと言えば文化系で、文系の科目の方が得意と言うところも一緒だった。さらに通学で使うバスも同じで、自然に彼と共にいる時間が増えていった。

 学年が上がりクラス替えの時、私と彼は別々のクラスとなった。
彼と顔を合わせる時間こそ減ったが、登校のバスなどで、一週間のうち半分は顔を合わせていた。
 大学受験を控えた3年生の春のクラス替えで再び同じクラスになると、今度は休日も一緒に図書館で勉強するし、毎日顔を合わせることになった。

 高校受験の比じゃなかった。
我々は必死に勉強し、正月もないも同然のまま試験の日を迎えた。
試験が終わっての帰り道、彼が隣を歩いていた。
「出来の方はどうだった?」
―――うーん、まぁまぁってあたりかな…
「僕の方は………正直、かなり厳しいかもしれない」
―――……きっと大丈夫だよ
「ん……そうだね…」
試験から1週間後、大学のホームページ上に掲載された合格者一覧には間違いなく彼の番号があった。

 4月になり、大学の入学式が粛々と行われている。
彼がスーツ姿で式に参加している頃、私は大手の予備校の一教室にいた。
浪人生活は初めこそ勉強する気に満ちていたが、次第に惰性に引き込まれるように、授業をサボり近くの本屋で時間を潰すようになった。
幸か不幸か、駅前に大型書店がオープンしたのが運の尽き。
まるで図書館に通うかのように、読書スペースのある書店で時を過ごした。
 9月の半ば、不意に彼から連絡があった。
大学生活を満喫をしていた彼は、まさに輝ける青春を過ごす若者そのものだった。予備校近くのお好み焼き屋で夕食を共にしながら、彼は自分の大学生活について一頻り話すと、私の様子を訊ねた。
私が冗談交じりに勉強に身が入らないと応えると、彼は穏和な表情を消し、真剣な表情となり大声で怒鳴りつけた。
「一体お前は何をやっているんだ!」
一・に他の客が私たちの方を注目するが、彼は全くそんなことを気にする様子もない。
そして淡々と「今は受験にしっかりと取り組め」ということを言葉少なに語ると伝票を片手に席を立った。
 私は1人残されたテーブルで彼の言葉を噛みしめていた。

 やがて秋も深まり、程なく雪がちらつく頃合となる。
試験の前日、予備校の自習室の窓外では音もなく雪が降り続けていた。
暖房がよく効いた部屋で、目線を目の前の問題集に戻したとき、私は懐かしい声を聞いた。
「やぁ」
―――彼の姿がそこにあった。
「ちょっと近くまで来る用事があってね。・角だからちょっと寄ってみたが……」
9月のあの日以来のことだが、もう何年も会ってないような気がした。
この感じ……まるで初めて彼と会ったときのような唐突さを感じた。
「ああ、そうだ。差し入れを持ってきたんだ」
そう言って栄養ドリンクを箱ごと机の上に置くと、マジマジと私の顔を見つめ
「まぁ邪魔しても悪いから、もう行くわ」
と、言い残して背を向けた。
私は思わず席を立ち、彼を追いかけた。
短い廊下の先、エレベーターホールで、彼は淡々とエレベーターを待っていた。
何を彼に言うべきか、あの日の気まずさがまだ少し心に残っている。
―――差し入れ、ありがとう。
咄嗟に口をついて出た言葉にしては上出来だろうか?
チーンとベルが鳴り、エレベーターが到着すると、彼は私を待つことなく乗り込んだ。
「試験頑張れよ。先に大学で待ってる。じゃあ」
エレベーターの中と外、時間にすればほんの一瞬のこと。
彼は扉が閉じる中、いつもと同じように「じゃあ」の一言で最後を締めくくった。


 結論から言うと、私は彼と同じ第一志望の大学に行くことは出来なかった。
もう1年頑張れば、今度こそは受かるかもしれなかったが、家の事情がそれをゆるさなかった。
ついでに言えば私自身がもう一年浪人をすることを望まなかった。
結局、3月のギリギリになり、滑り止めで受けた地方の大学へ進むことになった。
―――そうえいば、高校も入学直後は1人だったな。
 引っ越しの慌ただしさの中で、彼と会う時間は取れなかった。
4月になり、桜の花が舞うキャンパスで、私はたった1人で入学式に臨んだ。

 私が大学に入った後、一度だけ彼と会った。
駅前のファミリーレストランでランチを食べ、今度時間があったら一緒に旅行にでも行こうかということを話した。
 そして用事があるという彼はいつも通りに「じゃあ」と片手を挙げ、改札機の向こう側へと消えていった。

 次に再会したとき、既に彼は棺の中に納められていた。



 数日間分のダイレクトメールが溜まった郵便受けに、彼の実家から一周忌を告げる葉書が届いていた。
―――そうか、もう1年がたったか……
郵便受けからその葉書だけを抜き取ると、隠れるようにもう一つ封筒が届いていた。見慣れぬ筆跡で私の宛名が書かれているそれを取り上げると、死んだ彼の妹の中が差出人の欄にあった。

 部屋に戻り封筒を空けると、中にもう一つの封筒と1枚の便せんが入っている。便せんには、彼が生前に妹に託した私宛の遺書があるということと、それを一周忌の頃に私宛に届けてくれと頼まれたと言うことが端的に書かれ、もしよろしければ一周忌にぜひ来てくれと言うメッセージが添えられていた。
 切手も住所も無く、ただ私の名前だけが細いボールペンで記された白封筒を丁寧に空けると、高校時代に彼が愛用していた薄汚れたシャープペンシルと、私への遺書が入っていた。


 “この手紙を読まれているころ、私は既にこの世の人間ではないでしょう。”
―――こんなありきたりのフレーズをまさか使うことになるとは思ってもいませんでした。
 元気でやっていますか?まさかとは思いますが、既に私の後を追っているなんて事にはなってませんね。
 今になって特に何か伝えたいというわけでこの筆をとったわけではありません。君といつも一緒だった高校の3年間で私も学びました。今さらさも意味があるかのような言葉を投げかけたところで、君が聞いてくれるとは思いませんし(笑)
 ただ、一つだけ無二の親友である君に頼みがあります。地図を同封しました。そこへ出向き、写真を撮り私の墓前に供えて欲しいのです。
前に君と会ったとき、昼食を共にしながら旅行しようと話したことを覚えているでしょうか?
君と一緒に行きたい場所があるのです。しかしそれはもう叶わぬ事となりました。
せめて君がそこの写真撮り、それを供えて貰うことで代わりにしたいのです。
よろしく。



 丁寧に三つ折りにされた2枚目の便せんには、住所と簡単な地図が添えられていた。そして包み込まれるように1万円札が5枚。
―――交通費という訳か。
便せんに記されていた住所は東京都のものだった。
そこに何があるかは分からない。
だが彼が私に託した最後の希望に応えるべく、私は飛行機の空席を調べた。

 彼の一周忌の法要の前日の夜、私は郷里ではなく、まだ東京にいた。
手紙に書かれた一行に収まる住所は日中に訪れてみたが、近代的なビルが聳えているだけだった。
 高校の同期の友人である鮒代の家へ半ば押しかけるように泊まりにいくと、彼は又来たのかと嫌そうな顔をしつつも私の分の布団を用意してくれた。
 
 次の日の午前中、私は鮒代邸を辞すと、五反田から地下鉄に乗り換えまた同じ住所へと向かった。
いまや懐かしい彼の筆跡で描かれた簡単な地図には、昨日見たビルを川を挟んだ向こう側から撮影して欲しいと、丁寧にも撮影ポイントまで書き込まれていた。
 地下鉄の入り口から外へ出ると、正午の日差しが眩しく輝いていた。
東京らしく活気に溢れたこの街角で、彼は一体私に何を見せたかったのだろう?

 彼は死の間際に私にメッセージを残した。
ほんの些細な、しかし貴重な会話の断片。
一緒に旅行に行こうと持ちかけてきたのは彼の方だった。
そう、そこには彼が私に見せたかった何かがあるのだ。
最後に彼が伝えたかったもの。
この地図に指定された場所から、あのビルの方を見たとき、そこにはきっと彼が私に残してくれた最後の何かがあるのだろう。

 大きな川に橋が架かっている。
この橋を渡った右側に緑地帯が広がっている。
地図に示された撮影ポイントはその緑地から、今は私の背後にある住所に示された土地を望む構図であった。
 私は一歩一歩、彼が一緒に歩いているかのようにしっかりと足を踏みしめながら橋を渡る。
まさにこの橋は、私と彼を繋ぐ橋なのだろう。
高校の入学式から彼の死までの間の想い出が走馬燈のように脳裏に去来した。

 橋を渡りきった先の交差点に足を踏み入れることなく、川の堤防に沿って歩く。
敢えて橋の向こうの景色は見ていない。
この地図に示された場所まで来て、私は目を瞑った。

―――いいか、お前が来たかった場所に俺は着いた。
このカメラで写真を撮る。そしてお前に見せてやる。


 私はゆっくりと瞼をあげる。
そこには陽光に照らされ輝く水面と、綺麗なコントラストをなす堤防の芝生、そして川の向こう側にそびえ立つ金色に彩られた高いビルと、逆台形の黒いビル。
まるで一枚の風景画のように完成された構図が目の前に広がっていた。

 思わず私はその場に崩れ落ちた。
地面に這うように手足をつく。
―――これが……これが彼が見たかったものなのか。
私は悟った。
彼が死ぬ間際まで見たいと願い、私に見せたかったものの正体を。

それは川の対岸にそびえるビルだった。
とても有名なビルだ。そう、確か彼がこのビルの存在を教えてくれた。

  
  通称―――うんこビル。


 発泡酒の泡とも蝋燭の灯りをモチーフにしたとも言われるが、どう見てもうんこにしか見えないオブジェを屋上に掲げた東京の名所である。

 私は泣きながらシャッター切った。
今は天国にいる友人よ、君が望んだうんこビルの写真はしっかりと撮ったよ。
柔らかな日差しの中、私は彼の声を聞いた気がした。
『ありが―――』

「ママー、あの人うんこ見ながら泣いてるよー」
「見るんじゃありません。あんな下品なものを涙を流すほど喜んでみるなんて、まったく信じられないわ」

 彼の声は聞こえた気がしただけだった。
私は何とも言えない虚しい気分になりながら、彼の一周忌へ向かうべく、空港へ向かうバスへと急ぎながら、うんこビルに背を向けた。

後日談
posted by 東村氏 at 22:59| Comment(1) | TrackBack(0) | 妄想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月15日

連続蜜柑小説ポン〜回想編〜

 吾輩が幼少なる故にまだ物を知らぬ時分のことである。
成り行きなどは最早覚へておらぬが、祖母に手を引かれ、銀座へと歩ゐたことがたつた一度だけあつた。

 初めて目にする都会では、街の真ん中を路面電車が走り、ハイカラな服装のモボ・モガが闊歩してゐた。
吾輩は幼い心の中にデモクラシヰの粋を感じた物である。
 一際、覚へてゐるのは、三越デパァトメントのことだ。
まるで大きな山の様に聳える建物の中には、絢爛な灯りと舶来の品々に溢れ、宮中を街中に持つてきたの如しと、大変に驚ひたものであつた。

 その後、吾輩は幾度となく東京へ詣でる機会はあつたが、浅草、丸の内、秋葉原は歩けども、どうしてか銀座にはあの幼い日以来トンとご無沙汰をしてゐた。
 吾輩の住んでいた街には三越は無かつたので、結局三越デパァトメントもあの日のただ一度だけの訪問以来であつたのだ。

 やがて吾輩にも親元を離れる日が来た。
赴任先は四国の片田舎、愛媛県の新居浜と言ふ街である。
鈍行の列車に揺られて三日間かけてやうやく大阪に着ひた。
見物の一つもしたひ処だが、着ひてすぐに夜行の船に乗り換へた。
そしてたうたう着ひた先が、新居浜の港であつた。

 新居浜の街は、自然に溢れてゐる。
豊かな緑に包まれた低ひ山がどこまでも連なり、瀬戸内の海は
故郷の黒ずんだそれと比べると、随分と澄んだ蒼ひ色をしてゐる。
とりたてて、何かがあると言ふ訳ではなひが、愛媛の街らしく、蜜柑だけは豊富にあつた。
吾輩は、この街がいたく気に入つた。

 暑い盛りも終わると、紅葉が色付き、やがて冬を迎える。
冬に雪が積もらぬと言ふことに驚き、橙色に輝く当地特産の蜜柑が爛々と木になる頃になると、吾輩は幾分かの不満を覚へてゐた。


 初めこそ感動を覚へた当地の自然は、幾ばくもしなひうちに飽きが来た。
とかく娯楽がなひ。
夕刊もなければ、ラジヲもなひ。
都会の喧噪から切り離された当地の夜は、人の代わり虫がさざめき、ネオンの代わりに星が闇に輝ひてゐるばかり。
まうウンザリだ。

 或る日の事である。
だうしやうもなひ感情に襲われた吾輩はふらりと駅前の散策に出た。
木造の如何にも古ひ駅舎に並んで、小さな商店が並んでゐる。
その一つを見て、吾輩は驚ゐた。
三越デパァトメントがあつたのだ。
建物は、やはり木造の小さな物であつたが、看板にかかつてゐる屋号はあの三越だ。
東京日本橋・銀座とも書ひてあるじやなひか。
あの随分と大きな三越のことだ。
この小さな片田舎の街にも支店を持つことが出来たのだらう。
吾輩は都会の片鱗への期待を胸に抱き、扉を開けた。

 中には幾つかの薄く埃を被つたショウケェスが並んでゐる。
覗き込んで、吾輩は失望した。
陳列されてゐたのは、とうの昔に出されたラジヲと、型落ちのキャメラ。
それから国産の一番安い煙草に、贈答用のカルピスくらいのものである。

 吾輩は声を出し、店員を呼ぶと、店の奥の襖がノソノソと開き、随分と訛りの酷ひ老婆が姿を現した。
 吾輩が「この店は、かの有名な三越の店か?」と、問ふと
老婆は「旦那様の仰る通り、東京の三越デパァトメントの出先であります」と応へた。
 次に「では銀座と同じ物は何か売つてゐないひのか?」と問ふてみると、
老婆は「暫くお待ち下され」と云ひ、奥へと引き下がつた。

 随分と待たされたが、一つの箱を抱えて戻つて来た。
こんなにも吾輩を待たせるとは、よほど良い物なのだらふ。
吾輩が念を押すと、老婆は
「旦那様、これは東京の銀座の店でも扱つてゐる一流の品でござひます。どうぞご覧下され」と云つた。
 吾輩は、随分と重く、しっかりとした無地の箱の蓋を、大ひなる期待を秘めて開ひた。

 そこには眩いほどに輝く蜜柑が幾つか詰まつてゐた。
老婆が云ふ。
「銀座の本店でも扱ふ、当地新居浜特産の蜜柑です。これほどの品はなかなか地元でもお目にかかれますまゐ」

 吾輩は萎へた。

(完)
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2006年06月12日

東村大震災

本日、朝5時1分頃、大分県中部を中心とする強い地震が観測された。この地震の影響で東村氏の人生に大きな影響が出た。



 夢うつつの中、ぼんやりとしながら枕元の時計をたぐり寄せると、丁度5時になろうとかという頃合いだった。
―――随分と早いな……
そのまま枕に顔を埋め、うとうとと、二度寝へと意識が薄れかけたとき、身体が揺すられるのを感じた。
―――まだ早いじゃないか、起こさないでくれよ……

 いや、待て。
誰が起こしてくれるのだ?
不意に頭に疑問が浮かび、気がつけば部屋全体が大きく揺れていた。
地震かっ!!
思わず飛び起きる。
揺れは収まる様子が無く、さらに激しさを増していく。
一体いつまで揺れ続けるんだ!
咄嗟に本棚が倒れない様に支えながら毒づいた。
窓からは、爽やかな朝の日差しが差し込んでいた。

 いつまでも続くかに思われた揺れは、いつのまにか収まっていた。
時計を見ると5時2分。
揺れそのものは1分もなかったに違いないが、体感時間は随分と長く感じた。
窓の外に目をやると、相変わらず爽やかな青空と、砂埃が吹き上がり、道路がひび割れた松山の市街地が広がっていた。

 愕然としながらもテレビの電源を入れる。
………ダメだ。停電している。
しんと静まりかえったように音がない。
やがて遠くから幾重にも重なったサイレンの音が聞こえてきた。
とりあえず、一端外に出て、様子を確かめなければ。

 部屋の鍵をかけ、マンションの外へ。
もちろんエレベーターは使えない。
壁に幾つか亀裂が走っているが、見たところすぐに崩れそうな感じでもないので安心した。
 昨日の夜まで平だったはずの路面は所々亀裂が走り、盛り上がっている。
とりあえず大学へ向かって歩いてみることにした。
伊予鉄の踏切を越えると工学部が見えてくる。

工学部棟は煙を噴いている。
6〜7階辺りの窓から黒煙がもうもうと拭きだし、時折赤い炎が見える。
玄関には徹夜で残っていたとおぼしき学生が呆然とした表情で、建物を見上げていた。

 日頃から世話になっている法文講義棟は、無惨にも崩れ落ちていた。
講義棟と2号館を結ぶ屋外の階段が、残骸の中、途中まで原形を留めていた。
向かいの図書館も、幾枚かのガラスが割れ、まるで廃墟にしか見えない。
法文学部本館前の時計は根本から折れ、道をふさいでいた。

 そのまま共通教育講義棟や、教育学部のあるエリアへ。
グリーンホールとの愛称のついた大講義室も」、大きなガラスが全て割れ、天井にぶら下がっていたであろうプロジェクターが落下している。
もし、これが昼間だったら、幾人かの学生が犠牲になっていたかもしれない。
posted by 東村氏 at 21:02| Comment(3) | TrackBack(0) | 妄想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月11日

うわさ話

 先日、学友らと共に花見に出かけたときの話。
ある知人が曰く、最近TCXの更新が頻繁なのは、東村氏が告白して、ふられたかららしいとの噂があるらしい。

 話を聞いたときは、思わず咄嗟に、それは事実ではないと否定したが、実のところは、その噂の通りである。
なぜ否定してしまったのかというと、それは私と告白した相手しか知らないであろうはずであることが公然と流布されていることに驚いたからこそ他ならない。
どこに他人様の目があるか分かったもんじゃない。
まぁそれはどうでもいいことだ。

こうして噂が流れている以上は幾ら否定したところで無駄であろう。
然るに、ここは私自身の手で、一体何があったのかを明らかにしていきたい。






 夕方の環状線の車内は、それなりに混んでいる。
扉の横の僅かなすペースに無理矢理座ると、程なく電車は出発した。
愛用のビジネスバックを膝に乗せ、文庫本の表紙を開いたのは良いが、生憎と睡魔が押し寄せ、うつらうつらと寝ていたらしい。
規則的な揺れが止まり、目を開くとそこは私が降りる予定の駅だった。
慌てて立ち上がり、電車を降りると、相も変わらずポツポツと雨が降り続いていた。
 駅から、目的のビルまでは少し離れている。
雨の中、傘も無しに歩く気もなかったので近くのコンビニで水色の傘を一本買い求めた。
ナイロンに水音が跳ねる音を聞きながら、ゆっくりと街の中へと歩いていく。
赤信号に捕まり、車道には長い車の列が出来た。
まだ降り出してから間もないので、水たまりはさほど大きくない。
だが――――帰る頃にはきっと大きな水溜まりになるのだろう。

 約束の時間よりジャスト5分前。
駅から少し歩いたところにある紀伊國屋書店の前に到着した。
真新しい傘を折り畳み、傘袋に包んで書店に入ると、思いがげず、待ち人も既に着いていた。
「……おつかれさま」
声をかけると、相手は読んでいた雑誌から顔を上げ、私を認めると微かに微笑み
「おつかれさま」
と返してきた。

 水色の傘の隣に、赤ベースのチェックの傘が並んだ。
幾ばくも歩かないうちに、高島屋デパートの前に到着する。
この界隈で最も大きな建物でもある高島屋デパートの最上階のレストラン街へ。
 その前にまだ時間に余裕があるので趣味のティーカップを覗かせて貰った。
某社の250周年記念のティーカップ。
1855年に開催されたパリ万博にちなんで、デザインされた産業宮殿の愛称で呼ばれるその品は、残念ながら学生がおいそれと手を出せる値段ではなかった。
しばらく眺めていたが不意に我に帰った。
今日は1人で来ているんじゃない。
 同行者につまらない時間を作ってしまい申し訳ないとわびると、いや、私もこういうのは好きと言う。
おそらくは、ある程度の社交辞令的なニュアンスを含んだ物であるのだろうが、自分と同じ物に興味を持っている様子があるのが少しだけ嬉しかった。

 レストラン街を覗いてみると、お気に入りの洋食屋が入っていることに気がついた。
いつも横浜や銀座に出たときに、訪れている店がこの高島屋にもあるとは意外だった。
入り口のメニュー表を覗くと値段も他の店と変わらない。
この点、もう一つのお気に入りの店の資生堂パーラーだと支店ごとに値段が違うので、なかなか新しいところに入りにくいが、まぁこちらのレストランなら大丈夫だろう。

 禁煙席をオーダーすると「只今混み合っております、しばらくお待ち頂くことになるかと思いますが、構いませんか?」という。
同行者は別に喫煙席でも構わないというので、すぐに案内して貰った。
窓際の席からは、眼下に広がる街の夜景が見えた。

 メニューを開くまでもなく、ここで食べるものは決まっている。
店の名を冠したハンブルクステーキ。
アルミホイルに包まれたまま出てくるこの料理は、この店が創業した当時からこの形らしい。
流石は老舗。
長年の歴史は今も色あせることなく、美味しい料理となって輝いている。
「何かおすすめはないの?」と尋ねられ、折角だから、同じのにしたらと、ハンブルクステーキを勧めてみると、じゃあ私もそれにするわと言った。
ウェイターを呼び、ハンブルクステーキを2人分、それから食後のデザートをオーダーする。
 ウェイターが下がると、同席者はお手洗いにと、席を立った。

 不意に1人になると、案外困る物である。
何をする訳で無くぼんやりと席に座りながら、時間の流れに身を任せるような感覚。
―――憧れの人と食事に来ているのか……
声に出さず、口の中で呟いてみるが、当人を目の前にしてなおも実感が湧かない。
彼女と食事を共にする機会に恵まれたのは、ほんの偶然の結果だ。

 年末年始の大旅行から、休む間もなく試験期間に突入した。
生憎と旅行中にやった授業の内容のノートがない。そこで困った私は学友に助けを求めた。
その学友は喜んで自身のノートを貸してくれた。
私は数日かけてノートを写し、試験の前日に学友にノートを返すことにした。

 そう、あの試験の前日もまた雨の日だった。
朝方から降り続く雨は夕方には季節はずれの大雨となった。
寒い2月の雨。
その雨の中、呆然と立ちすくむ彼女の姿があった。
時刻は午後の10時。
夜の学内は静まりかえり、その場にいたのは私と彼女だけだった。
だからだろうか?
声をかけたのは―――

 いつもの自分なら、軽く一瞥をしてただ通り過ぎるだけの筈だった。
あのとき、声をかけるという気まぐれを起こした理由は今となっては自分ですら分からない。
ただ、声をかけたのだ。
「傘も差さないで一体、何をやってるんだい?」と。
彼女とはそんなに親しい訳ではない。
ずっと昔に何回か簡単に言葉を交わしたくらいの関係。
幾つかの被ってる授業で、そう言えばいつも見る顔だなと思うくらいの1人。
そして―――密かに憧れていた人でもあった。
「……あの……明日の試験のノート、落としちゃって……」
確かに彼女の足下には泥にまみれて汚れたバックと、水を吸ったルーズリーフが落ちていた。
元は綺麗なペン字であったであろうルーズリーフも、インクが滲んでよく分からないシミになっている。
「そんなところにいたら風邪を引くよ。とりあえずあの下まで行ったら?」
近くの屋根のある掲示板へと促すと、おぼつかない足取りで彼女は掲示板の下へと動く。
 私は小さくため息をつきながら、バックとルーズリーフを水溜まりの中から拾い上げた。

 拾い上げたバックを、持っていたポケットティッシュを幾枚も使い、とりあえず外側の水気だけは拭き取った。
ルーズリーフの方は……これはもうどうしようもない。
バックを彼女に渡そうと差し出すと、彼女は微かに涙を零しながら受け取った。
「折角勉強したのに……無駄になっちゃったな……」
正直、ノートがダメになったくらいで泣くほどのことかとも思ったのは事実である。
 だがそこには彼女なりの事情があった。
明日の試験は彼女にとって、一つの目標であったらしい。
彼女の実家は、大学卒業後に実家に戻り、家業の小売店を継ぐようにと言ってきた。
 私の通う学科は、政治系と経済系の両方の学問が学べる学科であったことが彼女の不幸でもあり、幸運でもあった。
本来、経済で有名な大阪市立大学を志望していた彼女は、受験の直前で、志望校を私の学校へと変えた。
本当は政治学を学びたかったという彼女は、親の意向に従って経済系の学科としても受験雑誌に紹介されるここの学科に入り、そこで政治学を学ぼうとしていたらしい。
だが、いよいよ来年、学年が進むと専攻が決まる。
進路選択の一つを目前に控え、親に政治系のコースへ進むと告げたところ、案の定ケンカとなった。
しかし最後は、明日やる試験を初めとする幾つかの試験で全て"優"を取れば、家業に捕らわれず、自由にしても良いと言われたらしい。

 何ともありがちな話であるが、当人にとっては大きな問題であった。
明日の試験は今期の試験の中でも一番の難関と目されている試験だった。
それ故に私自身も柄になく試験勉強というものをやっていた訳ではあるが……

 明日の試験は朝一番で行われる。
持ち込みは自筆のノートのみ可となっていた。
持ち込み無しに試験にパスすることは難しいと言われている科目である。
ノートが無いのなら、"優"どころの話ではないだろう。
 とはいってもこの時間だ。
彼女が話を終えた頃、長針は既にくるりと回っている時間だった。
 今さら誰かのノートを書き写したとしても到底間に合うまい。
いや、そもそも今夜は皆が必死にノートと教科書を照らし合わせ、誰かに貸す余裕なんて無いのだろう。
……仕方ないか。

 私は自分の鞄を開け、中から一冊のノートを取り出した。
「このノート、使う?」
彼女は顔を上げ、驚いた表情で私を見た。
「でも……それじゃあ東村君が明日の試験で使うノートが無くなるでしょ……受け取れないよ」
「いやいや、大丈夫。実はそのノートは下書きで清書した奴がここにあるんだ」
と、言ってもう一冊のノートを取り出した。
「ぇ……でも……」
だが彼女は躊躇ってノートを受け取ろうとしない。
「いいから。とりあえず持って行って」
私は自分のノートをむりやり彼女の、まだ微かに汚れの残る鞄に押し込むように入れると、
「じゃあ、ちょっと友達との約束の時間にだいぶ遅れているから」
とだけ言い残して、雨の中に彼女1人を置き去りにして、自転車へと向かった。

 今さら、学友の家に行く気などさらさら無い。
家に帰ると携帯電話を開いた。
数コールで学友が出る。
「ああ、もしもし……私だ。……そう、東村です。……はい……」
「大変申し訳ないが、実はお前から借りたノートあるじゃん、そうそう……明日の……」
「うん……あれだけどな……無くした……」
学友はお前、それマジで言ってんのと暫し絶句した。
結局、10分間の謝罪と交渉の末、夕食3食奢りで話は片づいた。


 「お待たせ」、と彼女が戻ってきた。
いつの間にか、この会食に至るまでの回想に浸っていた私の意識を呼び戻す声。
「ずいぶんと変な顔」
よほど私は間の抜けた表情をしていたのだろうか?
そんな様子がツボに入ったのかクスクスと彼女は笑った。
彼女の笑顔を見て、少しだけ残っていた緊張が解けていった。

 彼女が戻ってくるのを待っていたのだろう。
料理はすぐに運ばれてきた。
アルミホイルに包まれたハンバーグ。
いや、この店ではハンバーグではなく、これをハンブルクステーキとお呼び下さいと言っているのでハンブルクステーキと呼ばさせて貰おうか。
慣れない手つきを隠しつつ、ナイフとフォークでアルミホイルを突き破ると、まだ肉汁が飛び跳ねているかのようアツアツのハンブルクステーキが姿を現した。
「東村君の貸してくれたノートのおかげでバッチリ優が取れました」
彼女は嬉しそうに報告する。
「なんとか、親も納得させれたし……自分のやりたい勉強がようやく出来る気がするの」
彼女の言葉の端々から、何かしらの開放感が感じられた。
私は完全に聞き役に廻っていた。
へぇ、とか、そうなんだとか相づちを打ちながら、彼女の将来の目標から他愛のない日常の出来事まで、話題は尽きない。

 「―――――お話の最中申し訳ありませんが……」
不意に話の最中にウェイターが、割り込んできた。
もうラストオーダーの時間らしい。
随分と長居をしたもんだ。
店に入ってから3時間はたっているだろう。
そろそろ頃合いだ。
席を立ちレジへ。
彼女はノートを借りた御礼だから自分が払うと言ったが、とりあえず電子マネーを使いたいからと、一端私が会計を済ませた。
もちろん彼女に金を出させる気は初めから無い。
高島屋も既に閉店し、エレベーターは地上階へと直行する。
眼下に広がる夜景が段々と大きく、そして狭くなり、しまいにいつもの目線の高さまで戻った。

 玄関を出ようとすると、彼女はちょっと待ってと、玄関脇のコインロッカーへと向かう。
……預けた荷物なんてあったっけと訝しむ間もなく、彼女はポケットから鍵を取り出すと、コインロッカーの中からバラの柄が印象的な高島屋の紙袋を取り出した。
そしてそれを私に預ける。
「―――これは?」
見た目の割にそんなに重たい物ではない。一体何を買ったのやら―――
「まぁ……お世話になった御礼。大した物じゃないけど……」
「そんな気を遣わなくてもいいのに……」
だが、本当はかなり嬉しかった。
「開けてみても……いい?」
「もちろん」
ドア横のベンチに腰掛け、丁寧に包み紙をはがすと、中は水色の箱だった。
真ん中に紺色の"W"の文字の中に壺をかたどったマークが付いている。
「これって……もしかして……」
そっと箱の蓋を開けると、中にワイン色のティーカップが入っていた。
「……アニュアルコレクションの……産業宮殿……」
そっと手に取ると、普段使っているティーカップには望むことすら出来ない軽さと鮮やかなデザインが目を惹く。
ティーカップをひっくり返すと、そこにはまぎれもなく、fine born chinaとWEDGWOODの文字があった。
「こんなに高価な物もらえ……」
「いいから、とりあえず持って行って」
私の言葉を遮るようにどこかで聞いた台詞。
彼女はベンチから立ち上がると玄関の扉を押し開けた。
「あっ、ちょっと…待って……これ片づけるから……」
慌ててティーカップを箱に戻し、包装紙を折りたたみ、高島屋の紙袋にしまい込んだ。
彼女はその間ずっと扉の外で待っていてくれた。

 白いタイルが敷き詰められたサザンテラス。
目の前に立つ2つのビルは殆ど灯りを落としている。
ホテルが入っている左の白いビルの上の方の階から、白熱灯とおぼしき色付いた灯りが幾つか漏れていた。
振り返ると大きな時計塔のライトアップされた時計が見える。

 そう言えば、雨はもう止んでいるようだ。
雨上がり独特の、水気を拭くんだ空気を夜の風が運んでいく。
サザンテラスの上のスターバックスも常夜灯のみを残し、眠りについている。
―――まるで街全体が眠りについているかのように、やけに静かだった。
もう少し歩いて横断歩道を渡れば、すぐに電車の乗り場だ。
今しかないか……

 私は不意に足を止めた。
彼女は、半歩進んで、こちらを振り返る。
私は意を決した。
「………」
だが、言葉にならない。
「……どうしたの?」
彼女が問いかける。
「……もし……もしよかったら何だけど、付き合って貰えませんか?」

 時間が止まったかのような感覚。
彼女はまさかこのようなことを言われると思っていなかったのか、少し驚いた表情で私を見つめた。
「えっと……いきなり言われても……」
やはり困惑しているようだ。
言わなければよかったかなと、少しだけ後悔した。

 ポツリポツリと、微かに雨が降り始めた。
向かい合って立ち止まった私と彼女の横を親子連れが駅へと先を急いで行く。
双子だろうか?
おそろいの服を着て、ツインテールのよく似合う姉妹が父親、母親それぞれの手を繋いで、彼女の後、駅を目指して歩いていく。

「あ…幼女だ……」
この静まった時間に私の呟きが響いた。
「東村君、今、なんて……?」
気がつけば親子連れを目で追っていた。
そんな私の意識を引き戻す彼女の声。
彼女は幾分か厳しい表情で私を見つめていた。
「えっ?」
「今、……今、……なんて呟いたの?」
彼女はもしかして怒っているのだろうか?
何か悪いことをしたのだろうか?
私は困惑しながらも、先ほどの呟きを繰り返した。
「えっと……『あ、幼女だ。』だけど……」

 彼女は嘆息した。
「そう……」
見上げた空は、月も隠れるほどの曇り空で、下に広がる街の灯りを雲が反射して、どこか白くぼやけた空だった。
「ごめんなさい。東村君とは付き合う気はないの……」
私は雲と同じ様なぼんやりとした意識の中で彼女の言葉を聞いていた。
「そんな幼女が好きなんて……特殊性癖の人とは到底付き合う事なんて、出来る訳ないじゃない……」
……そうか。現実なんて、そんなものか……。
いや、初めから分かっていたことじゃないか。
彼女も又、結局は三次元の存在であった訳だ。
わたしが普段から住んでいる二次元の世界とは根本からして―――違う。
「もうこれから、私を見かけても声をかけないで。あぁ、私、30分発のホームウェイの席を既に取ってるの。じゃあね。さようなら」
彼女はオーバーアクション気味に腕時計を見ながら、早口でそう告げると、点滅する横断歩道を駆け抜け、小田急線の改札へと向かう人混みの中へと消えていった。

 雨はまだ降り止まない。
私は彼女の消えた方をしばらく見やっていたが、横断歩道を渡ると、不意に方向を変えた。
見上げた先には、雨の薄いカーテンの向こうに特徴的なパークタワーが霞んでみた。
 弧を描くかのような甲州街道を進む。
程なく交差点の向こう側にオレンジ色の看板を掲げたペンシルビルが見える横断歩道まで来た。
青になるのを待って、私は新宿駅へ向かって歩く大勢の人波に逆らうかのように歩いて行く。
とらのあな新宿店で、愛すべき東方シリーズのアレンジCDを探す為。
ローゼンメイデンのギャグ系の同人誌を探す為。
狭いエレベーターホールの前で、私は上方向のボタンを押したのだった。


うわさ話 〜京王線の終着駅の物語〜
=完=
posted by 東村氏 at 00:48| Comment(10) | TrackBack(0) | 妄想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月30日

連続蜜柑小説ポンU 本編2

 蜜柑王国愛媛県下第2位の都市、今治。
何気なく入ったコンビニで、この間大学を卒業した先輩が何食わぬ顔でレジを打っていて意表をつかれた。
「ああ、誰かと思ったら福原さん……!」
数ヶ月ぶりに見た先輩は、学生時代とあまりかわらず飄々と片手をあげた。
冷蔵庫からペットボトルを一つ。
もちろんポンジュースだ。
 あんな小岩井農場なんて色付きからして薄いオレンジジュースなどとうてい飲む気にすらならない。
「先輩、ちょっとサービスして下さいよ」
冗談めかして値切り交渉をしたら、規則だからとあっさり断られてしまった。

 しばらく来ないうちにずいぶんと近代的な街になったもんだ。
数年前に瀬戸内海を挟んだ反対側の街、広島県の尾道と結ぶ大きな橋が山の向こうに微かに見えて、車窓から流れ去った。
トンネルと堤防を交互に眺めながら、電車に揺られているうちにうつらうつらと。
目が覚めると、既に松山に到着していた。

 ちらりと時計を見やると少し時間がある。
駅前の大規模古書店に入り、100円コーナーを見繕っていると不意に声をかけられた。
「……ご苦労」
こんな声のかけ方をするのは一人しかいない。
振り返ると、やはりそこにいたのは東村だった。
「なんかここに初井君がいるのに全く違和感がないな」といいながらお互いに笑い合った。

 すぐ近くの大型スーパー、通称グランに入ると、ひんやりとした冷気が体を包み込んだ。
「いやー初井さん…ありませんねぇ、この時間だと」
東村はずいぶんとケチな奴だ。
そして、無駄に豪勢な奴でもある。
また高級食材の半額品でも狙っているのだろう。
「神の足跡は、まだついていないようですな」
神の足跡、かつて彼のブログに書かれていた、スーパーの食品値引きシールのことだ。
よく黄色地に紅い文字で半額だの○円引きだの書いてあるアレのことだ。
さて、適当に東村を受け流しつつ、スーパーをうろうろと、そしてレジに通し、自転車にまたがった。

 いつも通り東村の家に上がり込み、買ってきた総菜を広げる。
東村はパソコンの電源をつけ、お湯を沸かしながら皿洗いなんかをやっている。
……また同人誌を増やしたな、コイツは。
東村の部屋に幾つもある本棚に収まっている薄い本がまた一段分増えていた。
先週、また神戸に行ってきたらしい。
ずいぶんと金と時間に余裕があるもんだ……
「さて、準備が出来ましたよっ、と」
いつの間にか、東村が皿と箸を整えていた。
「ひゃほーう」と、訳の分からない歓声を上げながら箸を伸ばした。

 夕食も程なく終わる頃、不意に東村が改まった表情になった。
「ところで……このあいだ神戸に行ったときのことなんだけどさ…」
奴にしてはずいぶんと歯切れの悪い。
「彼の墓前に行ってきたんだよ……」
彼―――ああ、彼のことか……
「……そういえば、命日だったんだ……」
羽藤と初めて向かい合った日と、彼と最後に会ったときのことが走馬燈のようにフラッシュバックした。
posted by 東村氏 at 18:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 妄想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

連続蜜柑小説ポンU 本編1

市街地と山の境界上を走る高速道路。
僕はバスの車窓から流れゆく街並みをぼんやりと見ていた。

遠く小高い丘の上に、近代的なビルの谷間に、昔ながらの堂々とした城が聳えているのが見えた。
やがてバスは幾分か長いトンネルをくぐると、大きな川を渡り、風景は一変した。
垣根を巡らせているかのような茶畑と、山の斜面に沿って段々に設けられた畑に無数の木がオレンジ色の果実をつけているのが見えている。

初めて訪れた、蜜柑の産地として有名なこの地で、僕は運命と出会った。



連続蜜柑小説
ポンU

Relay Orenge Novel "POM"



原作
東村 光 著 『蜜柑(2003年発表)』

出演
東村 光(UPFG)
Higashimura Hikari
鮒代 悟(UPFG東京)
Funadai Satoru
間崎 雪(UPFG神戸)
Mazaki Yuki
初井 潤(CSR米子)
Hatsui Jun




――――――遙か林檎の国へと旅だった友人Yに贈る。



1 島を結ぶ橋

 よく晴れた空から初夏らしい陽の光が注いでいる。
どこかのどかな農村の風景の中で、しかし、黒いスーツを身にまとった彼の姿はどこか浮いていた。
いくつかある農家とおぼしき住宅の呼び鈴を鳴らすと、農家の主婦らしい人なつっこさと、どことなく野暮ったさが残る初老の女性がのんびりと玄関を開けた。
「おんや、これはまぁ遠いとこからよう来はったなぁ……」
黒いスーツの男は軽い会釈で返すと、家の中へと上がり込んだ。

 通された奥の間に仏壇があった。
黒いスーツの男は仏壇に向き合うと、線香に火をつけ、丁寧にお参りをしている。
農家の主婦はじっと黙って後ろから彼の背中を見つめていた。
その表情はどこか複雑な感情が交じっているようにも見える。
 おもむろに男が振り返ると、主婦はこちらへと客間へと男を導いた。

 「しかしまぁ、東村さん。あんたがここに参るようになってからもう10年も立つじゃないか。ワシもすっかり老け込みましたわぁ……」
明け放れた縁側から、手入れをされた庭を眺めながら、東村とよばれた黒スーツの男は、出されたお茶を一口すすった。
「いえ、ご主人には生前、よくお世話になりましたから……いくら時間が流れても、もうあのときの恩は返せませんがね」
「いんやあんたぐらいのもんだぁ…毎年必ず命日に欠かさずに来てくれるのは……もうあンときの連中でうちの人のことを気にかけてくれるのなんざおらんわぁ……」
話の流れは自然と過去に向く。
10年と老婦人と言ったが、実際は12年前のことだった。
ここの仏壇に祀られている人物。
羽藤創(はとう そう)が死んだのは。

 東村は不意にここに来るまでの間に見た光景を想い出した。
海に向かって真っ直ぐに延びる橋は対岸の島まで続いていた。
羽藤が命を賭けて渡した橋。
そして彼は橋が完成すると、まるでそれを待ち受けていたかのように逝った。
まるで橋に遺志を託すかのように。

「ほれ、うちの畑でとれた蜜柑じゃ。一つ食べていきんしゃい」
東村は目の前に出された蜜柑をしげしげと見つめた。
幾分か小降りの温州蜜柑。羽藤が生前、よく好んで食べていたものだった。
川を向こうと手に取ると思ったよりも冷たい。
「本当は冷蔵庫で作るもんらしいがのぅ、最近は機械が便利になったけん冬のうちからずっと凍らせておいたんじゃ」
シャリシャリというアイスキャンディーとも違う食感の冷凍蜜柑を味わいながら、穏やかな午後が流れていった。

「時に……」
不意に老婦人が話題を変えた。
「最近ちぃと小耳に挟んだことがあってのぅ……」
「何か動きが……?」
東村の抽象的な問いかけ、老婦人がうなずく。
「詳しいことは判らんが、あンときの、ほれ……加川ンとこの倅がなにやら動いているようじゃけぇ、あんたも少し気ぃつけたほうがええかもしれんのぅ……」
加川ンとこの倅……加川正人のことだろう。
東村は加川に気をつけろと言う老婦人の忠告を受け止めると、羽藤邸を辞することにした。

「では、また。時間が出来たら立ち寄りますので……」
「ほんに、ほんに。まぁこんな田舎じゃけぇ、よっぽど余裕があるときにでも来て下されや」
「はい……。では失礼を……」
いつしか陽は傾き、遠く山のバックがオレンジ色に染まっていた。
東村はあぜ道を歩き、しばらくいくと誰もいない小さな駅まで行く。
予め帰りの時間を調べていたらしい。
彼が着いて程なく、水色のたった2台だけつながれた電車がガタゴトとホームに到着した。




posted by 東村氏 at 17:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 妄想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月14日

連続蜜柑小説ポンU −柑橘類の幻想とボクの夢− 第3話

2話以前 → http://upfg.cubicplus.net/  


 僕を乗せた電車はガタゴトと、どこまでも続く街の合間を走り抜けていた。
カーブの多いこの電車は、時折車体を軋ませながら、2〜3駅ごとに止まっていった。
やがて本線との分岐駅に差し掛かった。
電車は一際大きく揺れると、左に向けて曲がっていく。

 短い停車時間の間に乗客が入れ替わると、電車は動き出した。
大きな踏切を越えると車窓が一変した。
今度はまるで裏路地のように線路のすぐ近くまで民家が密集した中をゆっくりと走っていく。
車窓から目を離し、ずっとページが止まっていた文庫本を読み始めるとまもなく、不意に窓の外が暗くなると、電車は地下に潜り、ほどなく終点の駅に着いた。

 都会らしい綺麗で無機質なホームからエスカレーターで登ると、改札を抜け、またエスカレーターに乗せられる。
 回りは大きな鞄を持った人が目に付くなか、僕の持っているのは、どこにでもある普通のビジネスバッグが一つだけだった。

 広々としたロビーに、大きな電光表示板があった。
日本中の主要都市の名前がある。
―――全日空593便 松山行 14:20 空席待ち 搭乗手続き中
僕はその表示を確かめると、数人が待つチェックインの列に並んだ。
大学と大学院、合わせて6年間過ごした東京とも、これでお別れか……
ふと、初めて松山から東京に出てきた日のことを思い出した。

 6年前、まだ羽田空港にターミナルビルが一つしかなかった頃。
僕は、やはり今日と同じように鞄一つだけを持って東京にやってきた。
初めての一人暮らしに大きな期待と、少しだけの不安を抱いて。
そして空港を出る前に自動販売機で一本のジュースを買ったことを覚えている。
あの自動販売機はまだ残っているのだろうか?

「お客様―――?」
いつの間にか僕の番が来ていたらしい。
僕は慌てて半券がまだ白いままの搭乗券を差し出した。

 持ち物検査をくぐり抜け、出発ロビーへ。
ガラス越しにこれから乗る飛行機が駐機しているのが見える。
時間つぶしに、売店を覗いているとまだお土産を買っていなかったことに気がつき、ひよこと東京ばななを幾つか買うと、荷物が二つに増えてしまった。

 やがて機内に案内される。
昼下がりの便は春休みシーズンの為か、やけに混んでいた。
指定された席は、窓側の席に座り、出発を待つ。
そろそろ頃合いか―――。
出発ギリギリの時間になって真ん中の席を空けた通路側に学生らしき若い女性が座ると間もなく、ポーンという音と共にシートベルトの着用サインが灯った。
―――その音を聞いたとき、熱い「何か」が心の奥の深いところから湧き上がってきた。

 飛行機がゆっくりと後ろ向きに動き出す。
正面のスクリーンでは非常時の手順について説明されていた。
僕はポケットに入れっぱなしになっていた文庫本のページを捲り読み始めた。
ゆるゆると動いていた飛行機が、ぴたりと止まった。
ポーン、ポーン、ポーン、ポーン……
またあの音が客室内に鳴り響く。

 ―――ああ、なんだろう。
 とても大切な、そしてずっと忘れていた懐かしい「何か」の感覚。

 さっきのポーンという響きに隠された「何か」
飛行機は一呼吸置くと、エンジン音を轟かせて離陸に入った。
ふわりと浮かび上がる感覚と共に、グイグイと身体が椅子に押しつけられ、大空に飛び立っていくのがわかる。
窓の外には羽田空港と湾岸の工業地帯が小さくなり、やがて雲の向こうに消えていった。

 消えて行く東京を眺めながら、胸の中に広がる「何か」の正体を探し求める。

ポーンという音が三度機内に鳴り響く。
そしてカチャカチャとシートベルトを外す音が聞こえる。
隣の席の女性もシートベルトを外すと、立ち上がり、天井の荷物入れから自分の鞄を取り出した。
そして鞄の中から一本のペットボトルを取り出す。

 ―――!!
―――わかった。
「何か」の正体。
僕が松山を、郷里愛媛を出てからずっと忘れていた大切な存在。



彼女の手に、ポンジュースのペットボトルが握られていた。




 松山に帰ったら、まずはポンジュースを一本買おう。
隣の席から、微かな柑橘類の香りが漂ってきた。
窓の外には冬の夕陽が空を藤色に照らしていた。
その光景はまるで、ポンジュースを零した、こたつ布団のように綺麗だった。

(続く)


posted by 東村氏 at 23:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 妄想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月29日

降り積もる雪の下の妹(U)

 階段を上がり、部屋の扉の横にあるスイッチを入れると、ジーと音と、一呼吸置いて蛍光灯が灯った。
チカチカと数回の明滅を繰り返し、ボンヤリとした白い無機質な灯りが部屋を満たした。
パソコンのスイッチを入れ、起動を待つ間に、コートを脱ぎ捨てた。

 またいつもの夜が始まった。
幾つかのチャット窓と、ウェブブラウザが、部屋の中と同じように乱雑にデスクトップに重なり散らばっている。
不意に、窓の外を見やると、カーテンの隙間から、オレンジの街灯に照らし出された雪が降っているのが見えた。
また大雪か。
明日の朝は渋滞しなければいいなと思いながら、玄関先にうずくまっていた妹のことを思い出した。
 唐突にフラッシュバックした数日前の妹。
確かに夜な夜な隣の部屋からキーボードと笑い声が聞こえてくるのはさぞかし気持ち悪いことだろう。
ちょっと控えめにしてみようか……
いや、これは妹の為じゃない。
客観的にキモい状況を作り出すのはヲタとして失格だからだ。
間違っても妹の為じゃない。



 階段を上がり、自分の部屋に戻る。
いい加減、外にいるのが寒いからだ。
静かな夜―――
暖房は切られていたが、家の中はまだ暖かい。
暗い闇の中で隣の部屋の扉から微かな灯りだけが漏れていた。
私はこっそりと静かに部屋の扉を開けた。
鍵だけ閉めて、電気は付けずに窓の外を眺める。
ハロゲンランプのオレンジ色の世界が見慣れた風景を不思議な場所に変えていた。
降り続ける雪はまるで、世界と私の間を区切るブラインド。
そうなんだ。
飽くことなく、窓の外に広がる世界に魅入られていた私は、ある瞬間を境に気付いた。
―――私は、―――いらない存在なんだ。



 キーボードを心持ちソフトに叩いてみる。
いや、もう今日はパソコンをよそう。
スタートキーを押して終了画面を呼び出すこのおかしな仕組みも、いつの間にか慣れた。
どこかがおかしいと初めは思っていても、それが繰り返される日常の中に組み込まれてしまえば、むしろ自然な事に思えてくる。
そう言えば、いつからだろう。妹との関係がギクシャクし始めたのは―――。


 部屋の中に響くのは微かな時計の針の音。
窓の外では相変わらず降り続ける雪。
静まりかえった夜。
私だけがここに存在している。

 そう、まさにここは私だけの世界。
外界から切り離された、孤独な空間。
ここには私の他に何もない。
ただ表面的に話題を合わせるだけの友人もいなければ、無意味な勉強もない。
もちろん何の目的のない仕事も。
―――義務のない世界。責任もない。
そして――――――なんの楽しみもまたない。

 どこまでも降り続ける雪に覆われて、私は白い何もない虚空にただ存在するだけの存在になる――――――


遠くから何かが聞こえてくる。
  ―――ここは何もない世界。
遠くから何か音が聞こえてくる。
  ―――ここは私だけの世界。他に何かが存在している訳がない。
遠くからカチャカチャと音が聞こえてくる。
  ―――ここは私だけの世界。音が聞こえてくるはずがない。
遠くからカチャカチャと、そして笑い声が聞こえてくる。
  ―――ここは私だけの―――世界―――じゃ、ない?

 不意に音はやみ、時計の針の音が響く世界に帰ってくる。
そして脈絡無くノイズがまた、私を惑わす。
うるさい。
 窓の外は白い雪。私の他に何もない世界。
窓開けると、冷たい風と共に僅かな雪が私の手のひらに舞い降りて、融けて消える。
ほら、―――何も存在しない。

カチャカチャカチャ……
  うるさい。
カチャカチャカチャ……
  うるさい!
カチャカチャカチャ……続いて笑い声

 ―――そうか、私は気がついた。
今この瞬間だけ開放されているだけで、私は現実の存在で、私は社会という大きな箱の中にいるのだと―――

カチャカチャカチャ……
私を現実に引き戻した音。

 そっと部屋から出ると、隣の部屋の扉から、微かに光が漏れている。

 カタカタカタ…
耳障りな音が幾らか柔らかくなったかと思うと、そのまま途絶えた。
私は1人暗い廊下に立ちつくす――――――




 ベッドに倒れ込むと、埃が舞った。
掃除をしていないせいだ。
枕元には幾冊かの本が散らばっている。
その中から適当な一冊に手を伸ばすとページを捲ってみる。
 ページは進むが全くストーリーが頭の中に入ってこない。
目で追う文字と、頭の中で広がる世界は初めから分離していた。ぼんやりと、ぐるぐると、考えが纏まりそうになっては霧散して消える。
どうして―――僕は―――。
今、何をしているのだろう―――いや、何をやるべきなのだろう―――

刹那的に過ごした日々。
記憶に留める価値すらない日常。

やがて僕はのそりとベッドから起きあがった。
何か飲み物でも漁ってこよう。
かろうじて、ドアの動く部分だけ床が見えていた。
ベッドの上から手を伸ばし、ノブをゆっくりと押し下げる。
蝶つがいが微かにきしんだ音を立てた。

posted by 東村氏 at 03:23| Comment(1) | TrackBack(0) | 妄想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年01月26日

降り積もる雪の下の妹

「先輩」
不意に呼びかけられ、顔を上げると底に後輩が幾分か不満げな顔をして立っていた。
「どうした?」
私が問いかけると、彼は幾分か疲れたため息混じりにこう告げた。
「東村さんはたまに顔を出したかと思ったら、仕事もしないでパソコンに向かってニヤニヤしているだけですか……」
なんだい、そんなことは……うん、まぁそんなこともあったかもしれない。
だが率直にそれを認めるのも、なんだか恥ずかしい気がする。
「いや、決して私はパソコンの画面に向かってニヤニヤする為だけにここにいるんじゃないよ」
「じゃあなんだって言うんですか?ここ1週間面倒な仕事はボクに押しつけて、全然動いてないじゃないですか」
むむぅ。
私は椅子から立ち上がり、軽く息を整えると、真正面から後輩と向き合った。
「いいかい、これから私のする話を良く聞くんだ。本当に私が何もせず、ただ無為に時間を浪費するだけの存在なのか、私の話を聞いてから判断を下すんだ」
レースのカーテンが引かれた教室内には、夕陽が差し込み、後輩の顔を紅く染めていた。
窓に向かうと日差しが眩しい。
だが冬の日差しは暖かく、それは既に過去となった思い出の中の日差しと同じ暖かさだった。



2003 Winter

 そう、あれはもう3〜4年も前のことだった。
当時の私は札幌に家族――両親と妹――と同居していた。
あの頃の私は働きながら大学を目指してね、
まぁそう言えば聞こえはよさげだが、実際のところは二足のわらじなんかはけるはずもなく、勉強はおろそかで、全然大学に受かれそうな見込みなんて無かった。

 私はそんな現実から逃げたかったのかもしれない。
いや―――事実逃げていたのだろう。
そう、あの頃の思い出と言えば白く積もった雪の中、家に帰りたくなくて夜の街をあてどもなくふらつき、ただ無為に時間を過ごし、無駄に飲んでいたことぐらいしかない。
 センター試験が終わると、その結果は散々なものだった。
所詮現実なんてこんなものさと思いながら、自分の能力の決定的な不足を社会のせいにして、目の前に突きつけられた結果から顔を背けていた。

 あの日もいつものように遅くなってから家に帰ったんだ。
自室に入り、コートとスーツをベッドの上に脱ぎ散らかして、パソコンの電源をいれる。
ブンと低い音、そしてハードディスクがくるくると回り出す音と共に見慣れた白地に旗のロゴが浮かび上がった。
インターネットの巡回コース。
プライベートな人付き合いはオンラインにしか残っていない。
仕事をしているとは言え、実際は限りなく『ヒキコモリ』に近い生活だった。
いや、精神的には完全なヒキコモリだったね、あれは。





刹那的に時間が流れていく。
いくつかピックアップされたお気に入りのサイトを見ては時折声をあげて笑う。
時計の長針と短針が重なる頃。
なんとなく暇になればオンライン上にいる知人にチャットで話しかけるか、掲示板に不意に思う着いたネタを書き込むのみ。
カタカタと無機質なキーボードが乱雑に散らかった部屋に響いていく。
ああ、夜が更ける。
明日もまだ仕事がある。
そろそろ寝ようか。
灯りを消すと、カーテンの隙間から街灯のオレンジの光がボンヤリと天井に移っていた。
遠くから微かに除雪車の音が響いていた。
ぼんやりと明日の朝は雪がどのくらい積もるのだろうと考えているうちに眠りにおちていった。

 翌朝、家を出る頃には、地下鉄駅までに走れば間に合うくらいの時間になっていた。
玄関には妹がいた。
高校の制服と指定のコートを纏い、ちらりと僕に目をやった。
とても冷たい目。
それは僕という存在を認めまいとする目。
そこに感情はない。そもそも今、ここに存在している僕は妹女の目の中ではただの虚無なのだ。
妹はこの辺りでも有数の進学校に通っている。
僕のような社会の落ちこぼれとは違う世界で生きていく人間だ。
彼女と僕の人生は今まだ重なっているが、それも後僅かのこと。
どちらかこの家を出て行くようになれば簡単に他人になってしまうのだろう。
そんなことを思わせるくらい僕と妹の仲は険悪だった。
いや、冷淡だったと言うのが正しいのかもしれない。
 僕たちは複雑に視線を一瞬だけ絡めると、お互いの存在を意識的に消して自分のスケジュールに従って動き出す。
妹は学校へ、僕は職場へ。
結局、昨日の夜から降っていたとおぼしき雪はまだ止むことが無く、朝の8時も近いというのに雪を踏みしめられて作られた歩道はとても狭かった。

 自分でも思うが、まぁ毎日毎日同じ事の繰り返しでよくぞ飽きないものだ。
今夜も家に帰ったのは夜の11時。
1人で冷えた残り飯を食べ、自室にヒキコモリパソコンと向かい合う。
掲示板に寄せられた返信を読んでは笑い、カタカタとキーボードに打ち込んでいく。
浪費される時間。
それは2バイト文字の作り出す量産型の愉しみに形を変え、何も残すことなく役割を終える。
ひとしきり満足の行くまでインターネットを徘徊し、布団に潜り込んだ。

 僕は休みの日の使い方を知らない。
せいぜい昼が過ぎるまで眠り、おもむろに布団からはい出るとまたパソコンに向かい合って前夜の続きの世界へと潜り込む。
そして気がつけば、今日もまた何もしないうちに一日が終わっていた。
不意に外に出たくなり、コートを羽織ると鍵だけ持って外へ出た。
家の隣に広がる大きな公園を散歩する。
ちらちらと雪が舞い落ち、街灯が廻りの雪を白く浮かび上がらせる中をふらふらと歩く。
なんとなく感傷的な気持ちになりながら、夜の誰もいない公園を歩いていると、自分はどこまでも無為な存在であると痛感した。

 ぐるりと公園を一周したところで、足が止まった。
誰かがそこにいた。
―――いや、誰かじゃない。あれは―――妹だ。

 上機嫌そうな妹の横顔は僕の姿を認めるとにわかに険しくなった。
同じタイミングで家にあがる。
玄関の扉を開けると妹はまるで当然であるかのような態度で僕の横をすり抜けてただいまと誰もいない玄関に向かって声を浴びせた。
まぁべつにこれくらいはなんでもない。
僕も家の中に入り、曇った眼鏡をポケットに突っ込んであったティシューで拭っていると妹が話しかけてきた。
「毎晩毎晩、キーボードの音を響かせながら笑い声を上げるのはいい加減にして貰えませんか?」
妹の声はまるで他人に接するかのように、冷たく響いた。
それだけ言い終えると、踵を返して階段を上がり乱暴に自分の部屋の扉を閉め、カチャリと鍵の閉まる音を最後に静寂が訪れる。
僕はただボンヤリと玄関に取り残された。

 また一週間が始まる。
さながら社会を廻す歯車のように働く日々。
だがその歯車の一つ一つは決して大切なものではなく、一つが欠けても社会は何事もなく回っていくものなのだ。
そう言う意味で僕は大して価値のある人間ではないのは間違いない。
だが、ひょっとしてそれは妹とて同じことなのではないだろうか?

 あの公園での邂逅から数日後。
僕は高校時代の数少ない友人と飲み交わし、酔いさましもかねて遠回りになる公園の中を歩いての家路についていた。
家の前まで来ると、そこに妹がうずくまっていた。
触らぬ神に祟りなし。
僕はその横を心持ち早足で通り抜けると、また乱雑な寝床へ帰っていく。





眠い。もう寝る。続く。
posted by 東村氏 at 01:15| Comment(2) | TrackBack(0) | 妄想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年11月28日

銀座

 いやはや東村氏の放置には全く困ったものである。
最近は割とラジオの放送回数ばかりが無駄に増えて、その分日記の更新が止まっている。
だが、ラジオで何か新しいネタを振る訳でもなく、いつも通り敬愛するみさくらなんこつと任意ラジオネタ、そしてMPSこと俺まぴょその中の人にキモイと言われる日々を送るばかりであった。

 さて、唐突に日記を書こうと思った訳だが、さりとて何か書くことがある訳でもない。
最近やったことと言えばせいぜい、魔法少女リリカルなのは(無印・A's)とローゼンメイデントロイメントを見たくらいだ。

 そういえば、来週は、所用の為に高校卒業以来通算20度目となる。今回はあまりゆっくりする余裕もなさそうではあるが、楽しみでもある。

―――そうだ銀座、行こう。

 吾輩はとくに宛もなく、ただゞブラブラと銀座の街を歩ひてゐた。街路には市電が走り、遠くに省線のチヨコレイト色の電車が走つてゐる様子が見えた。
 街並はハイカラを呈しており、話に聞く巴里の光景もまた、このやうな物であらうかと夢想するうち、省線の駅についた。しかし余はカリィを食すまで家に帰る気など毛頭無ひのでガードをくぐり、有樂町の街へと出た。
さうだ、是があつたじやなひか。
目の前には堂々たる帝國(インペリアル)ホテルがそびえてゐた。いざレストランにてカリィを食はむと思ふところではたと気がついた。
ポケツトの中には壱円札と幾枚かの硬貨、そしてたつた壱枚のハンケチィフのみ。
結局私は省線のホームにある屋台で五銭のうどんを食はさるる羽目になつたのであつた。

 折角だからと、吾輩は、赤坂に住まふ旧友桂川を訪ねることにした。省線でたつたの一駅である。これくらいならば歩けば良かつたと思ひながら、新橋で東洋一の地下鐵道と名高い東京地下鐵道線に乗り換へる。赤坂見附で電車を降りると、あとは程なくすると見覚えのある長屋が見えてきた。
 だがしかし桂川の表札が見あたらぬ。吾輩は偶然見つけた巡査に聞ひてみると。巡査は暫く待ちなさいと言つて、暫くして後、桂川が転居したことを告げたのであつた。
 全く驚ゐたことに、奴は昨年の秋に巴里へと発つていつたらしい。そんな話など聞いていない。私は妻に不満をあたり散らしたが、一向に構つてくれないので部屋の隅で蹲つてゐた。
すると見かねたかのやうに、飼い猫のクロが吾輩の方へ寄つてきた。吾輩は「ええい、畜生如きに余の心情など理解できまいて。寄るでない」と怒鳴りつけるとヤレヤレと言わんばかりに「ニヤ」と一声鳴ゐたのである。余はなんとも寂しい気持ちになつた。
 然し考へてみると悪ひのは連絡一つすら寄越さなひまま巴里へと去つた桂川であるからして、此れは一度苦情を言つてやらねば気が済まぬ。吾輩はスツクと立ち上がると一路仏蘭西へと行くことにした。
花の都、巴里と言へども過去の栄華であり、かの名高きエツフエル塔の如きに至つては、見るも無惨な赤錆が浮き、当地の生活の苦しさすら忍ばせるやうである。
 やや、話は戻るが怒りにまかせて家を出たときに、妻に出立を告げるのをついつい忘れてしまつたので、下関の船の待合から自宅に電話を入れた。今からちよつと巴里へ出かけてくるよと告げると、妻は大層驚ゐて、貴方正気ですかと曰うので、余はいやいや余は正気だよ。すぐに帰るからと言つて電話を切つてしまったのである。
 話を戻さう。私は巴里の大使館に行き、これこれそこの役人や。桂川と言ふ男の所在を延べよと言いつけた。半時ほど待たされた挙げくその役人の告げるに、桂川は一週間ほど前に倫敦へと移つたさうである。
 今から倫敦まで向かふのは些か手間であつたので、余は桂川に文句を言ふ気も失せ、祖国への帰路へと着いたのであつた。家に帰ると妻は書き置きを残し、郷に帰つてしまつてゐた。余は一人寂しく米を炊ひたのであつた。

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2005年11月14日

リアル電車ごっこ

子供の頃、よく遊んだ遊びがあった。
今日はそんな私の思い出話をしたい。


    リ ア ル 電 車 ご っ こ



―――よく晴れた、夏の日のこと。



1988年8月 札幌市



[1]
カンカンカンカン……
踏切の音が響き、2つ並んだ赤いランプが交互に点滅を始めると、じきに黒と黄色の竿がゆっくりとおりてきた。
やがて左側から低いエンジン音を響かせた赤とクリームに塗り分けられた列車が走ってくる。
1台…2台…3台…4台…5台………
列車が目の前を通り過ぎると、踏切の音はぴたりと止み、一呼吸置いて竿があがった。
車、自転車、そして人々が一斉に動き始める。

僕もそんな人々の中の一人だった。
今でも鮮明に覚えているその光景は、実は僕がまだ幼稚園に通っていたときのものだ。
そう、確かあの記憶、母親ともう一組の親子と一緒に公園かどこかに行こうとしていたときのことだったはず。

とても暑い日だったことを覚えている。
posted by 東村氏 at 23:33| Comment(1) | TrackBack(0) | 妄想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月17日

小説『国家非常事態宣言』最終話

 巡洋艦いしづちのほぼ中央部には、大きな煙突が聳えている。
それを見るまでもなく公式資料にも、いしづちの動力源はディーゼルと記載されている。
しかし実はいしづちは統合海軍が所有する唯一の原子力巡洋艦であった。
数年前に締結された伊予三島軍縮条約で、禁止された原子力艦は、重度の秘匿のもと、今治造船で秘密裏に建造されていたのだ。
このことを知るのは、当の乗組員と軍のごく一部だけだ。
 では真ん中に聳える煙突は何だ?
巧妙に偽装されたこの巨大な縦穴は、実は喫水線の下まで続く構造になっている。
 「艦長、準備が整いました」
緊張した表情を見せながら、品津が告げた。
 「うむ。……では攻撃を開始せよ!」
躊躇いを見せずに香野が宣言する。
 「攻撃開始!」
 「攻撃開始!」
 「攻撃開始!」
士官たちが次々と復唱する中、煙突から明るい煙と共に巨大な円筒形の物体が飛び上がって行く。
統合海軍、そしていしづちが誇る自己制御式ミサイルVnx-mkU型である。
目標は軍務府本庁舎。ミサイルは高度3500ftの低空を巡航し、目標命中精度98%という優れたスペックを備える。
CIC(戦闘指揮所)の巨大なスクリーンにはミサイルの航跡、予定進路、目標までの到達時間が映し出された。
命中まであと15分――――――
 


 軍務府司令室は、悲壮感に包まれていた。
 「司令長官!!Vnxが射出されてます!!ロックされました!!」
本庁舎の灯りは緊急を知らせる赤いものに変わっている。
そう、まるでこれから建物が血で包まれることを暗示するかのように。
 「Vnxを止める技術など存在しないっ……」
彼はかつての味方が放った決戦兵器の性能を充分に熟知していた。
もはや逃れる術がない。
唯一あるとすれば、航空部隊により打ち落とすしかないが、吾妻村首相の宣言はもうなされた。今頃自分につく部隊などあるはずがない。
もしあったとしても今からスクランブルをかけていても到底間に合わない。
いしづちが首都松山の近海にいた段階で、彼の運はつきていたのだろう。
 「諸君、私はもう既に反逆者だ。だが君たちまでも反逆者となる必要はない。全ての任務を解除する。そしてただちに軍務府から退去したまえ」
 シンと室内が静まりかえった。
 コンソールに座った1人が席を立ち、安河に敬礼をする。
答礼を返すと、彼は無言の内に部屋を去る。
次々と敬礼が繰りかえされ、やがて室内は彼1人となった。
既に館内にも退避命令は出された。
もうこの建物に残ったものは誰もいない。
 いないはず、だった。
廊下から近づいてくる足音。
副官の陣野が姿を現した。
 「馬鹿もん!!なぜ退避しない!!」
陣野は安河が怒鳴り散らす中でも、いつも通りの冷静を身に纏ったままだ。
 「長官、お届け物です」
そう言って迷彩色の小箱を差し出す。
安河は小箱を受け取り、開封して絶句した。
 「どうして……これを……?」
それはこの壮大な茶番劇の発端となったモノ。
 「こんなこともあろうかと、予備を用意しておいたのです」
―――予備だと……
それがあればこんな最悪の結末は防げたであろうに……
箱の中身は細い黒淵の眼鏡。
安河が普段愛用してるものと同色同型。
 「どうぞおかけ下さい。」
安河は陣野に言われるまま、眼鏡をかけた。
 「…見える。……見えるぞ……」
取り戻した視力。
安河が最後に見たのは爆発の閃光と、その中に佇む陣野の姿だった。



 松伊と広瀬は軍務府が炎に包まれる様子を目撃していた。
 「……どうです、綺麗なもんでしょう」
 背後から投げかけられた声。
振り返ると佐和田がいた。
 「松伊さん、ご協力頂き感謝しますよ」
妙に慇懃な彼の右手にはグロック17が握られている。
それを認めた瞬間に弘瀬が佐和田に向かい駆け出した。
デスクの横をすり抜け、地面に布施ながら間合いを詰めて――――――
 撃たれた。
勢いを失い、地面に倒れ伏す。
松伊は弘瀬と反対方向――壁と机の間――に身を伏せる。
 「至急処理しておいてくれたまえ」
佐和田が部屋を出る。
室内は静寂に包まれた。
何の気配もない。
 ―――いや、感じられないだけだ。
佐和田とその部下は暗殺のプロだ。最早自分は生き延びることは出来るまい。
 「ならば……」
松伊はポケットから本来は機密保持の為、通信機械の破壊に用いる手榴弾を取り出した。
こちらから見えないと言うことは向こうからも見えないと言うことだ。
腹這いになり、身体の下でピンを抜く。
―――よし。
 松伊は立ち上がり、腕を振り下ろす。
立ち上がった松伊の身体に無数の弾が撃ち込まれる。
松伊は意識を失いながらも手榴弾を床にたたきつけ、絶命した。
彼の身体は床に横たわることなく、足下からの強い衝撃に吹き飛ばされた。


 巡洋艦にいしづちは、ゆっくりと松山海軍港に向けて航行していた。
艦内はVnx-MK2の発の射出の興奮がまだ冷めやらない。
ワッチ(見張り)要員が大声で報告する。
 「10時方向から接近あり!」
灯火信号で、海上保安庁の船と識別出来た。
徐々に接近する海上保安船は、不意に進路を変えた。
 「!!雷跡がっ!!」
続いて二回に別れた大きな振動が船を揺さぶる。
至近距離での被弾。
 「艦長!!総員の退艦を!!」
品津の叫び声がブリッジに木霊する。
しかし総員退艦は発せられることはなかった。
いしづちは艦首と艦尾を共に上に――つまり船体の中心から折れる形で――漆黒の瀬戸内海へと乗員を乗せたまま沈んでいった。
 翌日、三津浜の海岸には品津と書かれたライフジャケットのみが流れ着いていた。



 軍務府のクーデター事件は当然の如く、大きな社会問題となった。
吾妻村首相は責任を取って退陣に追い込まれた。
退陣の翌日、吾妻村元首相は乗った車の首都高速で不慮の事故によりあえない最期をとげた。
 佐和田の目論見は見事に成功した。
しかしそんな彼も唯一の誤算があった。
吾妻村よりもさらに扱いやすい加藤(聡)党幹事長は、国会での首班指名を受けた。
だが、この大帝国を統べる皇帝が、彼の首相就任を拒んだ。
こんな事態は前代未聞であった。

 佐和田は、ついにタブーとされた皇帝暗殺を決意した。
そしてそれを最後に彼は、全ての記録から存在が抹消された。



 軍務府の残骸の片隅に、一つの眼鏡が落ちている。
フレームは曲がり、レンズが割れて到底使い物にならない。
そんなゴミとかした眼鏡は、かつてこの建物の最高責任者であった安河軍最高司令長官が身につけていたものである。
持主を失った眼鏡は、やがて瓦礫と共に葬り去られていった。


小説『国家非常事態宣言』 −糸冬−



posted by 東村氏 at 22:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 妄想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする